第19話天国の落とし穴
「「「いらっしゃいませぇ~。ようこそ
「お、お、お~。ここが伝説の桃源郷。なんてところだ! まさに魔界の天国ってやつだ」
俺を出迎えてくれたのは見渡す限りの美女悪魔たちだ。
それもちょっと可愛いというレベルじゃない。
皆それぞれが絶世の美女と言っても過言ではない。
さらに彼女らの容姿はお姉さん系からロリ系まで、ありとあらゆるタイプの子がそれぞれに合う理想的な際どいコスチュームで出迎えてくれているのだ。
「て、天国だ。夢の世界がこんなところにあったなんて」
「え~天国だなんて照れちゃうぞ。おにーちゃん☆」
感動のあまり思わず立ち尽くす俺に幼い顔をした小柄なツインテールの美少女が俺の服の裾を掴みながら甘えたような声を出してくる。
「そうですよ。そんなこと言われたらときめいてしまいます」
おっとりとした表情のお嬢様風の美女がその豊満な腕を押し付けながら耳元で囁いてくる。
「ここはキャバとかじゃなくて風〇店だから、こんな子達とあんなことやこんなことが出来るっていうのか!? う、ォォォォオオーーーッ!! 理性が、理性が崩壊するぅぅぅううッ。全財産を失っても、魔王軍幹部の称号を失うことになってもいいから俺はここで果ててやるぅぅぅううう」
俺はポケットから財布と通帳を取り出しながら獣じみた咆哮をあげる。
「なにバカなこと言ってるのよ!」
すると興奮していた俺の後頭部に衝撃が走る。
「ぐげッぇ!」
振り返ると握りこぶしをつくりながらとても怒っているフラムさんが立っていた。
「あんたは今日何しに来たのよ。魔王様の命令を達成するためにここに来たんでしょ」
「す、すまない。ちょっと油断していた」
「しかも、私と一緒にいるのに他の子に目がいくなんて信じられない」
「ん? なんか言ったか?」
「なんでもないわよ!! それとあなたたち、次トウマを誘惑したらクビだからね。トウマのことは道端に転がってるスライムと同じようなモノと思いなさい。わかった?」
「「「は、はい! わかりました。そちらの方、いえ、そこの雑魚モンスターは視界に入れる価値のないゴミ程度の存在と見るようにします」」」
すると美女二人とその様子をみていたキャスト全員がみんな急に俺のことをゴミを見る様な目で見てきた。
「ちょっと待ってくれ。フラムいくらなんでもこれはひどくないか。いくら俺でもかなり精神を削られるんだが」
「は? なに言ってるの? これでも甘いくらいよ」
「あ、そうですか。それなら大丈夫です」
そうか。このゴミを見るような視線で、甘い処置だったのか。フラムの奴はまじめだからな。俺がちゃんと仕事をする気がないのが相当勘に触ったんだろう。
せっかく気合いを入れてきたがしょうがない。これ以上フラムを怒らせるわけにもいかないしここは真面目に仕事をするしかないか。というよりももうみんな俺のことを人ととして見てくれてないしな。
視線を上げても周りはゴミを見る目だけだ。
「で、本題だが、この店のキャストの子達を本当にスゴロクのイベントとして使っても良いのか?」
「もちろんよ。みんなも喜んで了承してくれたわ。私たちサキュバスは今の魔王様にはちょっとやそっとじゃ返せないくらいの恩もあるしね」
「あのチビロリ魔王に恩があるのか?」
「そっか。トウマはまだ魔族になって日も浅いから知らないのね。私みたいな例外もいるけど基本的にサキュバスは魔族の中ではそんなに強い部類には入らないの。だから昔は強欲な魔族なんかに襲われることがよくあったのよ」
「そうなのか初耳だな」
「ええ、サキュバスは見た目も可愛い子が多くて、『淫夢』や『魅了』みたい性に関わる能力も使えるから野蛮な魔族はこぞって奴隷にしたがったのよ。そういった輩は私が片っ端から叩きのめしてたんだけど、それでも次から次へと同じようなやつがやってきて、私の力だけじゃどうしようもなくなってきちゃってね」
そう言うとフラムは少し悲しそうな目をした。
「でも、そんなときに今の魔王様が『あらそいはやめるのだ! もし従わない場合は私自らその者に手をくだすのだ!』と言ってくれてね。それで実際にサキュバスを奴隷にしようとした魔族を本当に圧倒的な力で粉砕してくれたことがあったの! そしたらその一撃があまりにも途轍もない威力で、『サキュバスに手を出したら破滅の魔王シルフィ・リリーに塵にされる』って噂が魔界中に広まったの」
「『破滅の魔王』か。あのチビロリ魔王にぴったりと言えばぴったりだし、似合わないといえば似合わない言葉だな」
「ほんとにね。でも、それ以降サキュバスが誘拐される事件はなくなったの。それくらい魔王様の一撃は衝撃的な光景だったし、今でもその場所は魔界のちょっとした観光地になってるくらいなのよ。だからサキュバスたちはみんな今の魔王様には言葉に出来ないくらい感謝してるの。今回の話をしたときはあの時の恩が返せるって言って、魔王城にいくメンバー枠の取り合いになったくらいよ」
「そうなのか。あのチビロリ魔王のやつ意外と人望あるんだな」
「確かに魔王様はおっちょこちょいなところもあるけど、それでもとても素敵な魔王様よ。それは№2として魔王様を支えているあなたが一番よくわかってるんじゃないの」
そこで俺はこの世界に
そして思わず笑みを浮かべる。
「どうだかな。でもそれを聞いて安心したよ。ここにいるキャストが来てくれるなら必ず魔王城は再生する。それだけの魅力が彼女らにはあるからな」
「ふふ、当たり前でしょ。私の自慢の仲間たちよ」
「そうだったな。ま、なんだかんだ言ってあのチビロリ魔王は俺の上司だからな。少しでも魔王城再生計画に貢献できるように頑張ってみるさ」
そして俺は周りのサキュバスたちへと視線を向ける。
「みんな。魔王軍№2としてたのむ。俺らと一緒に魔王城の再生に協力してくれ」
そんな俺をフラムが微笑みを浮かべながら見つめる。
そしてキャスト達が口を開く。
「雑魚モンスターの分際で何言ってんの?」
「路傍のスライムの分際で生意気~」
「調子乗りすぎです~」
俺は無言でフラムを睨むと、フラムは視線を泳がした後、チロリと舌を出し
「ごめんサキュバスは基本王政だから私の言うことは絶対なの忘れてた」
そう言って自分の頭をコツンっと叩いた。
なお、この時受けた心の傷のせいで俺の仕事に数日間の遅れが出たのはやむをえないことだ。
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