第18話 魔王城にハーレムを!!!

「ちっ、寝坊したか」


 太陽もまだ上っていない早朝4時、俺は後悔と共に目を覚ました。


「今から準備して間に合うか?」


 今日の予定を反芻しながら、俺は洗面所へと駆けこむ。


 ちなみに、今日はスゴロク化プロジェクトの企画の一つを行うために10時にフラムと待ち合わせをしている。


 なお、待ち合わせ場所までの距離は俺の家から一時間程度だ。


 つまり9時に家を出れば間に合う。


 言い換えればたった5時間しか時間がないのだ。


 俺は洗面所でこの日のために買った魔界のギャルがこぞって使っている高級顔面パックを装着する。


「今日はプロジェクトの中で最も大事なミッションと言っても過言ではない。絶対に最高の結果を出すぞ」


 そして魔界のカリスマ美容師から買ったワックスを手に取り髪形のセットを始める。


「ふぅ。最高の肌艶、髪形。いいか俺! 一切妥協するんじゃないぞ。今できるベストを尽くすんだ。なぜなら、なぜなら、今日は、今日は……」


最高級風俗店サキュバスハーレムに行く日だからな!!」


 そこで俺は思わず興奮が爆発し叫び声をあげてしまう。


 そう、今日、俺は男なら誰もが憧れる快楽の伏魔殿、性の悪魔都市パンデモニウム、S級サキュバスたちのみが在籍を許された超VIP店『悪魔城 天国の落とし穴ヘブンズ・フォール』に行くのだ。


 これは現在佳境を迎えている魔王城スゴロク化計画のミッションの一つである


・魔王城に風俗店を出店(魔王城ハーレム計画!!)


 を達成するためである。


 なお会議のとき、このプロジェクトはフラム一人で進める流れになったがプロジェクトの取り纏め役のポジションを利用し、なんとか俺もこのミッションに参加できるようになった。


 そもそも俺も魔王軍幹部という肩書きがあるとはいえ、一人の男でもある。



 性的欲求がないわけではない。



 今までは仕事が忙しかったり、誰かにバレて噂になるのが怖くてそういう所に行けなかったが、今回は仕事として堂々と行くことが出来るのだ。


 しかも、魔界一と呼ばれる最高の店にだ!!


 『悪魔城 天国の落とし穴』は本来ならば完全会員制の風俗店で厳しい審査を乗り越えた者のみが入店を許される聖域だ。


 しかし今回はサキュバスの女王であり、『悪魔城 天国の落とし穴』のオーナーでもあるフラムのおかげでこの俺も正式に入店を許可されたのだ。


 こんな機会はもう一生訪れないかもしれない。


 そして上手くいったらS級サキュバスとあんなことやこんなことが出来てしまう関係になれる可能性があるのだ。


 ここは男として一切の妥協なんてできるはずがない!


 そこで時計に目をやると髪形を弄り始めて既に一時間半が経過していた。


 ヤバい残り3時間半しかない。


 まだこの後、服のチョイスをしたり、S級サキュバスと話す会話ネタの暗記などやることは山ほどあるのだ。


「いいか俺。ベストを尽くせ!!」


 俺は窓を開け少し明るみ始めた魔界の空にそう叫んだ。


ーーーーーーーーーー

ーーーーーー

―――


「えットウマ!? どうしたのよその恰好」


 午前10時。待ち合わせ時間ぴったりに現れた俺を見るなりフラムがそう零した。


「ふっ、何って、いつも通りだけど何か?」


「いや、いつも通りって何なのよその髪に、服、明らかにいつもより気合入ってるじゃない。それに心なしか肌艶も良い気がするんだけど」


 流石にバレるか。というよりもここで何のツッコミもなく無反応だったら朝の努力が無駄になってしまうわけだしな。


「だいたいなんでそんなに気合入っているのよ。……ッ、もしかして今日のミッションが私と二人だから!? いやでもそんなトウマに限って」


「どうした? 急にぶつくさ言い出して」


「え!? その、えっと。今日はトウマにとって特別な日なのかなって思って……」


「そんなの当たり前だろ! 今日が特別じゃなかったらいつが特別か分からないくらい特別な日だ!!」


「―――ッ!?!?!?!」


 なんだフラムの奴、顔を赤くしてもじもじしてアイツらしくない。


「お前もしかして病気か? 熱でもあるんじゃないか」


 俺はフラムに額を近づける。


「えッ、何何何何何何何何何何何何なに!?!?!?!?!?!?」


 すると両手を振って、俺に抵抗しようとするが顔が近くなると、急に両手を握りしめ、目を閉じ、口をすぼめる不思議な表情をした。


 俺はそんなフラムを怪訝に思いながら額と額を合わせる。


「特に熱はなさそうだな。いつまで目を閉じてるんだ。てか、なんで目を閉じたんだ?」


「え? 終わり? キスじゃなかったの!?」


「何をわけのわからないことを言ってんだ?」


 やはり、熱がないだけでどこか体調が悪いんだろうか。


「う、うぅ~。でも、おでことおでこも、かなりドキドキしたし、まぁ今回はこれで……」


「おい、そんなことより早く行こうぜ。魔界の桃源郷ってやつによ」


 俺がそう言うとフラムは赤い顔でチラチラとこちらを何度も見ながら歩みを進めた。


 やはり今日のフラムは体調が悪いようだ。

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