第17話 カクテル

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――――――


―― 一週間後



「遅刻者ゼロか。流石だな」


「ほッほッほッ。少し苦労しましたが無事『暗黒竜の黒酒』手に入れて参りましたぞ」


 いつもは丁寧に整えられた白鬚をチリチリのすすけた黒ひげに姿を変えてきたサモンがテーブルに伝説アイテム『暗黒竜の黒酒』を置いた。


「じゃあ、次は私だね♪ はい、これが『氷華の果実』だよ~♪」


 次に褐色の肌が所々霜焼し、傷ついているリルがそんなの全く気にしないというように太陽の笑顔で大量の『氷華の果実』をテーブルに並べた。


「今度は私ね。ったくあのエロジジイ、じゃなかった。妖精王め。今度あったらタダじゃおかないわよ。はい、これが『妖精王の聖水』よ」


 フラムは今回のミッションで余程嫌なことがあったのか。会議室に入る前からブツブツと文句を言い、時折何かを思い出しては顔を赤らめながら、『妖精王の聖水』を『暗黒竜の黒酒』の隣りに置いた。


「最後は俺だな。これが『フェニックスの聖炎』だ」


 俺は魔水晶に閉じ込めてきた最後の一つの伝説アイテム『フェニックスの聖炎』を机に置く。


 今、会議室の机に4つの伝説アイテムが並べられたのだ。


 実に壮観だ。


 思わず見入ってしまう。


 他の者もこの光景に見惚れているだろうと思い、視線をやると、何故かアイテムじゃなく、皆俺の方を凝視していた。


「ん? どうした?」


 俺がそう聞き返すと全員顔を見合わせた後、まずリルがおずおずとした様子で口を開いた。


「ね、ねぇトウマ。聞いていいかわからないんだけど、その髪どうしたの? なんかアフロみたいな髪形になってるんだけど」


「ああ、これか。これはちょっとフェニックスの炎に焼かれてな。髪がチリチリになっちまった。サモンの髭とおそろいだな」


「わ、私の髭もそこまでではないような気がしますが……。それに髪だけじゃなくその洋服もどうされたのですか? パンツ以外何もお召しになってないようですが」


「ああ、これか。フェニックスの住んでいるギアド火山の道中で色々あってな。装備を吹き飛ばす魔法を喰らって、とりあえずパンツだけは死守したんだが、他の装備は吹き飛ばされちまった。実は恥ずかしい話なんだが、聖炎を手に入れるのに大分手間取ってな。魔王城に着いたのもついさっきで、着替える時間もなかったんだ。まあ、俺らの仲だから許してくれ」


「いいから早く服着なさいよ!! もう見てるこっちが恥ずかしいじゃない。それにその歩き方もなんなのよ。なんでずっとつま先立ちのヨチヨチ歩きなんかしてるのよ!!」


「おお、すまない。実はギアド火山の火口に住むフェニックスを呼び出すには特殊な舞を踊る必要があってな。地元の部族に教えて貰ったんだが、この踊りの足さばきが恐ろしいほど難しくてな。時間が無くてやり方だけで教わって練習がてらひたすらそれで歩行してたらまだ癖が抜けなくてな。宿儺の『イラッシャイマセ』を馬鹿に出来なくなっちまったな。ハハハ」


 俺が笑うとリルが引きつった笑みで


「アハハ、なんとなくフェニックスが一番大変だとは思ったけどトウマのミッションだけレベルが違ったみたいだね」


「そうね。でもこれで後は宿儺を起こしてカクテルを作ってもらうだけよ」


「ほっほっほっ。それでは骸骨ソルジャーを呼びますかな」


 そして骸骨ソルジャーとフラムの部下の夢魔に連れられて宿儺が会議室に運び込まれる。


「一週間ありがとうね。あとでご褒美あげないとね」


「え!? ルージュ様のご褒美ですか!? あの、その、私嬉しすぎて死んじゃうかも」


 幼い顔をした夢魔の女の子がフラムの言葉に顔を赤らめしどろもどろする。


 そんな夢魔を優しく撫でながら


「【状態異常回復リフレゼーション】」


 フラムが魔法を放つ。


 すると、宿儺の身体がもぞもぞと動き出し


「う、うーん。なんだ妙に身体が軽いな。こんなに疲れを感じないのはいつぶりだ」


「あ、スックーが『イラッシャイマセ』以外の言葉を喋ってるよ!!」


「ほっほっほっ。身体を休めたことで体力、精神力が共に回復したのだろう」


「俺は、眠っていたのか。……はっ、そうだ眠っている暇なんか俺にはない!! すぐにでもオリジナルカクテルのための素材を集めないと!! あのレシピなら絶対にお客様を満足させられるはずだ!!」


 そう言って駆けだそうとする宿儺をフラムが溜息と共に制する。


「待ちなさい宿儺。はぁ、ほんとに予想通りの行動をするわね。ほら机の上を見てみなさい」


 そこで足を止め、机の上に置かれたアイテムを見て息を飲む。


「うそ……だろ。これ、みんなが集めてくれたのか!? みんなだって自分のプロジェクトで忙しかったはずなのに。ありがとう。ありがとう」


 涙ぐむ宿儺にサモンが言う。


「ほっほっほ。礼ならトウマ様にいいなさい。皆でアイテムを集めようと言い出したのもトウマ様だし、今回一番苦労したのもトウマ様じゃ」


「トウマ、よくよく見たら随分な姿になっちまって、すまない。そしてありがとう。俺のためにこんな、こんな……」


「おいおい、魔王軍幹部の強面がこんなところで泣くなよ。お前の部下だって見てるぞって、骸骨ソルジャーも貰い泣きしてるな。まあ、幹部仲間である以前にお前は友達だしな。これくらいは当然だ。そんなことより、ここまでアイテムを揃えたんだ。もちろん俺らに振舞ってくれるんだよな。最高のカクテルってやつを」


「当たり前だ!! 最高のオリジナルカクテルをみんなに提供する。是非みんなに一番最初に飲んで欲しい」


「ふふ、そんなこと言って大丈夫かしら。私はお酒の味にはちょっとうるさいかもしれないわよ」


「わーい♪ スックーのカクテルが飲める♪ 飲める♪」


「ほっほっ。カクテルなんてシャレたものを飲むのはいつぶりかのう。楽しみじゃ」


「というわけだ宿儺。最高の一杯を頼むぜ」



ーーーーーーーーーー

ーーーーーー

―――


「これが俺が作る最高のオリジナルカクテルだ」


 俺らの目の前に宿儺が作ってくれた綺麗なオレンジ色のカクテルが並べられる。


「うわー綺麗♪」


 思わずリルが感嘆の声を上げる。


「確かにこんな綺麗な色のカクテルは初めて見るわ」


「ほっほっほっ。これはシャレておるな」


「おい宿儺。これで完成なのか? まだ使っていない材料が一つ残っていないか?」


 そうこのカクテルは、濃厚な深みがあり魔界の神酒と呼ばれる『暗黒竜の黒酒』と口当たりがよくまろやかな妖精の至宝と呼ばれる『妖精王の聖水』を1対2で混ぜたものに、爽快感のある味わいが特徴の果実の宝玉とも呼ばれる『氷華の果実』の果汁を加えて作られていた。


 つまりまだ俺が手に入れてきた『フェニックスの聖炎』が使われていないのだ。


「その通りだ。トウマ。このカクテルはお前が取って来てくれたこの『フェニックスの聖炎』を加えることで完成する」


 そう言うと俺のグラスに魔水晶を近づけ、『フェニックスの聖炎』を一欠けらグラスに零す。


 するとグラスの中で火種がぼわっと燃え上がり、幻想的な輝きを小さなカクテルグラスの中で放つ。


「綺麗ね」


 うっとりとした表情でフラムが述べる。


 そんな光景が数秒続いた後、輝きが徐々に収まりを見せる。


「さあ、これで本当に完成だ」


「すごーい! こんな飲み物見たことないよ」


 そこには先ほどまでも十分美しいオレンジ色をしていたカクテルが今はまるで太陽のような煌きを放っていた。


 その見た目だけで思わず心を奪われてしまう。正直に言ってこのまま飲まずに持ち帰りずっと眺めていたくなってしまう。


「ほっほっほっ、トウマ様、気持ちはわかりますが両面が心待ちにしておりますぞ」


 サモンに言われて宿儺を見ると確かに俺が口をつけるのを今か今かと待ちわびていた。


「悪かったな宿儺。思わず見惚れていた。それでは頂くとしようか」


 ゆっくりとカクテルに口を付ける。


 その瞬間、爽やかな柑橘系の甘みとどこまでも濃厚で深い味の深みが全身を支配する。


 まろやかで優しい口当たりも相まって、思わず喉に流し込むのを躊躇してしまうほどの美味だった。


 こんな味は転生前も転生後も味わったことがない。


 そして名残惜しさを感じながらもゆっくりとカクテルを喉に流し込む。すると体の内側から温もりが溢れ、全身に生命の奔流が駆け巡る。


 その衝撃に思わず仰け反る。


 この衝撃は恐らく最後に加えた『フェニックスの聖炎』の効果だろうが、もはや美味いを通り越して快感すら感じる。


 まさに究極の一品といえる品だろう。


「最高だ。ここまでの品を俺は今まで味わったことがない」


「ほんとか! そうか、これもみんな、お前たちが協力してくれたおかげだ」


「いや、お前の努力があってこそだ。ところでこのカクテルに名前はあるのか?」


 俺の言葉に宿儺は一瞬考え込むと、何か思いついたように口を開いた。


「このカクテルの名前は『きずな』だ。これがこの最高のカクテルにつける唯一無二の名前だよ」


 そう言って、幹部一の強面は子供のように笑ってみせた。


 その後、俺らは朝まで宿儺の快気祝いと称して飲み明かした。


 そして、いよいよ魔王城スゴロク化プロフェクトは大詰めを迎え始める。

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