第15話 武神死す!
仄暗いバーカウンターで一人の大男が頭を抱えていた。
「ダメだ。俺の求める味はこれじゃない。こんなカクテルじゃわざわざ魔王城まで来てくれた人たちに癒しを、くつろぎを提供できない」
男の名前は
紛れもない魔王軍幹部で【武神】の二つの名を持つ男だ。
その体躯は2メートルを超え、六本の腕を生やし、戦闘時には二本の剣と二張の弓を超一流の腕前で使いこなす。
また、その身に纏う赤銅の鎧は宿儺の魔力によって極限まで硬化され、絶大な防御力を誇る。
その見た目と魔界のみならず人間界にも伝わる数々の武勇伝から、魔王軍幹部で一番有名と言っても過言でないのがこの男だ。
だが、そんな魔王軍幹部一有名な男は終わらぬ苦悩に苛(さいな)まされていた。
「いったい後何が足りないんだ。俺のこのオリジナルカクテルはどうしたら完成させることができるんだ」
そう、宿儺は今回の魔王城ダンジョンスゴロク化プロジェクトで来訪者を癒すためのバーを開設する役割を担っていた。
宿儺はもともと手先が器用だったこともあり、人間界や魔界のポピュラーなカクテルや料理については問題なくマスターしていった。
だが宿儺はそれで満足しなかった。
―――訪れてくれる人々により満足してもらうためには、魔王城でしか飲めないオリジナルカクテルが絶対に必要だ。
宿儺はそう結論付けたのだ。
そこから彼の未だかつてない激闘がはじまった。
ほぼ睡眠もとらずに一ヶ月の間、六本の腕でひたすらシェイカーを振り続けた。
その目は充血し、未だかつてない頭痛を抱えながらも一切の妥協をしなかった。
そんな彼の足元にはまるで亡者共の共同墓地がごとく壊れた数多のシェイカーが無残に転がっていた。
それらは全てシェイクのしすぎでヒビや亀裂が走り、シェイカーとしての機能を果たさなくなり限界を超えてしまったものたちだ。
だが、そんな道具以上に限界を超えているものがいた。
それは両面宿儺本人である。
宿儺の六本の腕は常にカクテルをシェイクし続け、頭の中では今まで作ったカクテルのレシピを反芻し最良の組み合わせを模索する。お客様に恐怖心を与えないようにその表情は常に朗らかな笑顔を保っている。それに加え常に背筋を伸ばし、バーテンダーとしての気品を保てるようにし、バーがオープンした時を想定し、その口は常に「いらっしゃいませ」の言葉を発し続けていた。
そしてそんな生活が1ヶ月続いたとき、ついに両面宿儺はバーのカウンターに突っ伏すようにして倒れ込んだ。
翌日たまたま様子を見に来たトウマによって宿儺は発見されたが、あの【武神】が倒れたというニュースは魔王軍幹部ならびに配下の魔族、魔物たちに激震を与えた。
そこで急遽、それぞれ自らのミッションのために各地に散っていた幹部たちが自発的に集まり、緊急魔王軍会議が開催されることとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます