第53話 少女の武勇伝

 最上階の番人は足首を切り落とされ、身動きが不可能となった。俺とイバトの元へ

、ネテス老人を背負ったクレアが駆けて来る


「ふはははっ!この私の芸術的な呪文で命を拾ったなお前等!!」


 後ろから聞こえてくるクロシードの大声を無視し、俺達四人は聖竜と天界人の石像の元へ移動した。


「それで!この後はどうするんだ爺さん!」


 俺はネテス老人に掴みかかる勢いで質問をする。


「落ち着けお若いの。おい赤毛の娘。その石像に両手を当てて魔力を込めるのじゃ」


「ま、魔力?私、もう殆ど魔力は残っていないわ」


 ネテス老人の指示に、クレアは困り果てた表情になる。


「多くの魔力は必要ないぞい。とにかくやってみろ。ほれ」


 ネテス老人に頭を小突かれ、クレアは要領を得ない顔で石像に両手を添えた。その途端に、赤毛の少女の周囲に異変が生じた。


 風が巻き起こったようにクレアのローブが揺れ動く。石像が小刻みに振動し、クレアの身体が青白い光に包まれて行く。


「······!!な、何これ!?」


 クレアは驚愕の表情で狼狽える。ネテス老人は自らクレアの背中から降り立った。


「魔法石は魔力を増幅させる。この塔は全て魔法石で造られておる。そしてこの石像は塔の魔力を一点に集める役割を担っておる。赤毛の娘よ。お前の僅かな魔力はこの塔によって膨大に膨らんでおる。上手く操りこの石像に魔力を集めるのじゃ」


 ネテス老人はこの状況でも呑気な口調を変えなかった。気軽に言われた本人はそれ所では無かった。


「む、無理よ!こんな巨大な魔力!私には扱えないわ!!」


 クレアは悲鳴混じりに叫んだ。その間にも振動とクレアの身体の光はその強さを増していく。


「心を平静にしてやるのじゃ。イメージはそうじゃなあ。花瓶の中に両手を入れ、瓶底の水をすくう感覚じゃ」


「全っ然分かんないんだけど!その例え!」


 クレアが泣きそうな表情でネテス老人に抗議した。そのクレアに、イバトが傷らだけの顔で微笑みかける。


「クレア。やってみろよ。お前も最初の武勇伝をここで作るんだ」


「······イバト」


 俺はイバトとクレアの肩に手のひらを置いた。


「イバト。クレア。俺がその武勇伝の生き証人になってやる。失敗したっていい。思いっ切りやってみろ」


 俺は自然と笑みが溢れていた。こんな少年少女が過分な責任を負わされている。責任を負うべき大人の俺が証人になる事など、容易い役目だった。


「······分かった。やるわ私。その代わり、イバトもエリクのおじさんも、私をちゃんと見てて!」


 意を決したクレアは、力強い表情で石像を掴んだ。俺とイバトは同時に頷く。


「所でネテスのじいさん。魔力を一点に集めたらどうなるの?」


 イバトが素朴な疑問を床に座り込むネテス老人に問いかけた。


「この石像から七色の光が天に向かって放たれる。その光を聖竜に当てるのじゃ。さすれば、黒龍となったあ奴の暴走は止まるじゃろて」


 ネテス老人の説明に俺とイバトは空を見上げた。肉を喰らい身体を黒く染めた聖竜はこの石像の正に真上に浮かんでいた。


 


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