第44話 三階の番人

 俺達は二階の番人を倒し、三階に歩を進めた。階段を登ると、そこには番人が静かに俺達を待ち構えていた。


 それは騎士だった。銀色の兜。赤色の装飾が施された甲冑。右手には長剣。左手に盾。そして目線を下にすると、番人の下半身が異様な事に気づく。


 番人の腰から下は獣のそれだった。茶色い毛に覆われた下半身からは四本の脚が伸び身体を支えている。


 その四本のつま先には、鋭い爪が光っていた。半獣の番人は、後ろ二本の脚で地を蹴り突然襲って来た。


「······早い!!」


 完全に気勢を制す事を許してしまった俺は思わず叫んだ。半獣番人はネテス老人を背負っているユリサに剣を振り下ろす。


 耳をつく金属音が響く。鋭い斬撃はもう一本の剣によって防がれた。半獣番人とユリサの間に、イバトが滑り込んでいた。


 半獣番人は直ぐ様後方に移動する。後退する時もなんて速さだ!


「こいつは俺が相手する!足の速さなら絶対に負けないから!!」


 イバトが堂々と宣言した。確かに、奴の高速の移動に付いて行けるのはイバトの俊足だけかもしれなかった。


「いい度胸だイバト。あの半獣に勝てたら、お前の望み通り剣を教えてやってもいいぞ」


「ほ、本当!?ザンカルの兄ちゃん!」


 ザンカルの思わぬ褒美に、イバトは敵から顔を逸し余所見をする。隙だらけの単細胞馬鹿に半獣番人は突進して来た。


 イバトは逆に自分から半獣番人に向かって突撃する。虚を突かれた半獣は直角に方角を変え横に飛ぶ。


 イバトも右足で地を蹴り横に移動する。イバトが剣を振り、半獣が盾でそれを防ぐ。イバトと半獣は高速で移動しながら斬撃の応酬を繰り広げた。


 イバトはその俊足を如何なく発揮して半獣番人と互角の戦いを見せた。だが、半獣が後退してイバトから距離を取った時、異変は再び起きた。


 半獣番人が前屈みになり、何か力を溜めているような格好に見えた。その瞬間、番人の上半身に異変が生じた。


 半獣の上半身がみるみる内に膨張し始めた


「何だこれは!?」


 俺は目を疑った。番人の上半身が倍の大きさになった。イバトは変貌を遂げた半獣にお構いなしに突っ込む。


 勝負は一撃で決した。倍の大きさになった上半身から繰り出された斬撃は、それを剣で防いだイバトの身体ごと吹き飛ばした。


 イバトの身体は壁に激突し、地面に崩れるように倒れた。


「イ、イバト!!」 


 クレアがイバトに駆け寄る。直ぐ様ザンカルとコルカがイバトと半獣の間に立った。


「······待ってよザンカルの兄ちゃん。そいつの相手は俺がするって言っただろう?」


 地に刺した剣にしがみつきながら、イバトは弱々しくザンカルを制した。


「無理をするなイバト。そこで休んでいろ」


 ザンカルは大剣を抜きながら、イバトを一瞥し、半獣番人に視線を移す。


「······駄目なんだよっ!!」


 イバトは今度は力強く叫んだ。


「誰かに守られたりしてたら、俺は何時になっても勇者になれない!有名になれない!村の奴等を見返せないんだよ!!」


 イバトはクレアの手を払い除け、足を引きずりながら半獣番人に向かって行く。見た所イバトの受けたダメージは大きく、唯一の武器と言っていい機動力も見る影も無かった。


「母ちゃんに貰ったこの足が動かなくなっても!俺には父ちゃん貰ったこの腕がある!!


 イバトが絶叫しながら右腕を伸ばす。その瞬間、イバトの右腕は突然太く変化して行く


 半獣番人の上半身の変化の後に、俺達は再び信じられない物を目の当たりにする事となった。


 




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る