第36話 野盗の群れ

 躊躇するクレアに、俺は走りながら再度呪文を唱えるよう叫んだ。魔族の少女は切羽詰まった表情で手にした魔法の杖を振るう。


 野盗達が寝そねべっていた中央で爆発が起きた。爆音と共に何人もの野党が吹き飛ばさた。


 正直俺はポンコツ魔法使いのクレアにさして期待はしていなかった。牽制程度にと考えていたが、まさかの大当たりだ。


 今の爆裂の呪文で野盗達は三割の戦力を失った。そして残った半数以上もまだ寝起きで戦闘準備を終えていない。


「ユリサ!コルカ!イバト!まだ武器を手にしていない奴から叩くんだ!」


 イバト辺りは俺のこの指示に納得が行かないかもしれない。だが、命のやり取りの最中に正々堂々も卑怯も無い。


 在るのは生き残る者か。死ぬ者かだ。


「このクソ野郎共!不意打ちたあ、ふざけた事しやがって!」


 一人の野盗が俺に斬りかかってきた。防具を装備する間が無かったようで上半身は裸だった。


「ほう。ではお前達野盗は俺達旅人を見逃すつもりだったのか?」


 俺は野盗の斬撃を受け流しながら質問する

。地底人やユリサの仲間だった騎士達の剣筋に比べれば、野党のそれは格段に劣っていた


「んな訳ねぇだろが!!獲物を見つけた以上

、狩るのが礼儀ってモンだろが!!」


 男は叫びながら剣を振り上げる。脇が隙だらけだった。


「それは良かった。正当防衛が成立したな」


 俺は男の脇に自分の剣を突き刺した。男は絶叫しながら倒れる。俺は周囲を一瞥する。コルカは相手から奪った剣を使い、自らの大剣と合わせ二本の剣で野盗は薙ぎ払う。


 ユリサは俊敏さで相手を圧倒し、急所に正確な打撃を叩き込む。イバトも開けた地形を利用し、素早い動きで相手に的を絞らせない。


 俺達は野盗を圧倒したが、相手が全員武器を持った辺りから流れが変わった。連中は密集体型を取り、数に任せて押し込んで来た。


 嫌な流れだ。俺は内心舌打ちをしながら後退する。その時、俺は信じられない光景を目にした。


 野盗達が休憩していた場所に、人影を見たからだ。その人影は野党達の荷を漁っていた。


 俺の驚愕した顔を不審に思ったのか、一人の野盗が後ろを振り返った。


「何してんだこの野郎! 俺達の荷物に触ってんじゃねぇぞ!?」


 野盗達は一斉に反転し、自分達の荷物を盗もうとしていた不届き者に向かって走って行く。


「エリクのおっさん!あれ、クロシード達だよ」


 イバトの言葉に、俺は目を細めて人影を確認する。黒いコートを着た魔族は、間違いなくクロシードだった。更にモナコ、ホケットも同行している。


「あの馬鹿!こんな所で何をしている!」


 俺達は野盗の後を追った。この機に逃げるべきだったが、子供のホケットを流石に見捨てられなかった。


「き、貴様等!このクロシード様に刃を向ける気か!?」


 十数人の野盗に囲まれたクロシードは、魔法の杖を構えて何かをほざいていた。モナコはホケットを抱きしめ震えている。


「俺達の荷物を盗もうなんざあ、いい度胸だ。覚悟は出来てるんだろうな?出来てなくも容赦はしえねぇがな」


 野盗は半数がクロシード達に武器を向け、半数は俺達に備えていた。


「ん?このガキ。どっかで見た事があるような」


 一人の野盗がモナコに抱きしめられていたホケットを見て呟いた。そして、その顔はみるみる内に蒼白になる。


「ホ、ホケット坊っちゃん!?あなたは誘拐されたホケット坊っちゃんじゃないですか!

?」


 野盗の絶叫に、血生臭い戦場が時を止めたように静かになった。


 

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