第37話 ホケット少年の親
「坊っちゃん!俺達はウラフ親分の配下のモンです!こんな所で見つかるたあ、驚きましたぜ!」
野盗の一人が嬉しそうにホケットに近づく。当のホケットはポカンとした表情だ。そして野盗は側にいるクロシードを睨みつける。
「······おい。黒いコートの魔族野郎。テメェが坊っちゃんを誘拐した犯人だな?」
野盗の殺意がこもった声にクロシードは一瞬怯んだが、開かなくていい余計な口を開く。
「言葉に気をつけろ盗賊。私はこの子供を誘拐などしておらん。保護だ。武装勢力から前途有望な子供を保護しただけだ」
クロシードは胸を張り堂々と言い切った。
言われた野盗は眉間にシワを寄せる。
「上等だ魔族野郎。テメェはウラフ軍団から地獄の底まで追い詰められる事決定だ」
野盗が口にしたウラフ軍団。俺も耳にした事がある名だった。最近急速に勢力を拡大している危険な武装集団だ。
ホケット本人から聞いた事があった。クロシードは武装集団の首領の息子であるホケットを誘拐したと。
よりにも寄って、首領のウラフの息子を誘拐したのかあの阿呆は!そして、クロシードを脅していた野盗は俺達にも敵意を向ける。
「テメェ等もこの魔族野郎の仲間だな!?ウラフ親分の息子であるホケット坊っちゃんを誘拐してタダで済むと思うなよ!!」
······それは違うぞ野盗。俺達はクロシードとは全くの無関係だ。俺は激しく抗議したかっが、頭に血が登った野盗は聞きそうにも無かった。
その時だった。ホケットの肩に乗っていた小竜が口を開け鳴いた。その瞬間、俺は頭が割れそうな痛みを感じた。
それは周囲の者達も同様らしい。この小竜は何か特殊な鳴き声を出しているのか!?
「エリク!今の内に逃げるぞ」
コルカが俺の肩を叩いて叫んだ。小竜の鳴き声を間近で聞いた野盗達は、顔を苦痛に歪める。
俺達はその隙に駆け出し、開けた平地から再び森に入った。しばらく後方に注意を払いながら進んだが、追手の気配は無かった。
「どうやら上手く巻いたようですね」
ユリサが安堵したように微笑した。
「おい駄目魔族。なんでお前までついて来るんだよ」
イバトは冷ややかな声を黒いコートの男に浴びせた。そう。何故かクロシード達が俺達の後ろについて来たのだ。
「うるさいぞこのガキ!好きでついて来ている訳ではない!モナコの神託通りに行動しているだけだ!!」
激昂した自称貴族の出は、唾を飛ばしながら叫んだ。
「モナコは街で占い師をやっていたんじゃないのか?」
俺は水色の長衣を着た女に問いかける。モナコの隣を歩くホケットが理由を話し始めた。
モナコが街で行った占いは好評だった。だが、突如としてその的中率は急落した。がめついクロシードが占い料金を倍にしたのも影響し、苦情に押し寄せた住民から逃げるように街を出たと言う。
「モナコ!お前は全く使えない奴だ!」
「ひぃぃっ!クロシード様!お許しを!お許しを!」
クロシードは杖の先でモナコを叩く。モナコは許しを乞いながらも表情は嬉しそうだ。俺は確信していた。
モナコの占いが当たらなくなったのは彼女の故意の仕業だ。以前モナコ本人が言っていた。彼女はクロシードの不幸な姿を見るのが好きだと。
するとホケットの肩に乗っていた小竜がクロシードの足首に噛み付いた。
「ぎゃあっ!!」
悶絶したクロシードはモナコから距離を取る。そう言えば小竜の卵を運んだ時に学者が言っていた。
小竜は生まれて初めて見たクロシードを仇とし、二番目に見たモナコを親とし、三番目に見たホケットを恋人として見ている。
親と思っているモナコに暴行を働いた仇のクロシードを攻撃するのは、小竜として当然の行為だろう。
その時俺は今更ながら気づいた。聖竜と小竜。生き別れになった竜の親子が、今この時再開した事に。
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