第34話 触れられた過去
四人の人間。二人の魔族。そして一体の竜は移動を開始した。目的は虹の塔と呼ばれる場所だ。
その塔に登り、白き聖竜を天界に逃がすと言う吟遊詩人が喜びそうな壮大な冒険譚だ。
だが、俺は不満と不快感で一杯だった。
あの聖竜の危険性は理解出来る。だがもう老いて死期も近い様子だ。放って置いてもいいのでは無いか?
それに実在するかも分からない塔を目指すだと?その塔から天界に繋がる虹?荒唐無稽もいい所だ。
現実主義の俺は心底呆れていた。横目で子供達を見ると、イバトとクレアは壮大な冒険に瞳を輝かせていた。
だが、所詮は子供。緊張感は一日と持たなかった。イバトとクレアは直ぐに疲れたなど退屈などと不平を漏らし始めた。
ひたすら森を北上して初日の夜。手頃な岩陰の下で俺達は夕食を摂る事にした。
「すっげぇいい匂い!コルカのおっさん。これ絶対に美味いよ!」
イバトはコルカの作るスープを食す前から絶賛する。コルカは使い込んだ鉄の台の下に火を焚き、台の上には陶器の器を置いた。
ジャガイモと玉ねぎを細かく刻み、器に放り込む。何種類かの香辛料を入れ、先程捕まえ血を抜いたうさぎの肉を入れて煮込む。
ネテス老人が持っていた乾燥パンを皆に配り、コルカのスープと共に俺達は夕食を摂った。
イバトの予想が的中したように、コルカのスープは絶品だった。子供達は育ち盛りの胃袋を満たす為に無心で食べていた。
「とても美味しいです。コルカさんは料理人に向いているのでは無いですか?」
スープの器を両膝に置きながら、イバトとクレアの十倍は行儀良く食しているユリサが笑顔でコルカを称賛した。
「······こんな身体で雇ってくれる所があったならな」
コルカは素っ気なく答え、聖竜を一瞥した
。聖竜はあれから眠り続けたままだ。移動の際はコルカが抱えている。
気のせいか。いや。確実に聖竜はまた身体が小さくなっていた。
クレアが感心な事に食事をしながら魔法書を読んでいた。それを見たネテス老人がクレアからその本を掴み取る。
「おおっ!これはワシ達が書いた魔法書ではないか!嬉しいのお。しっかりと世に出て読まれておるのお!」
俺がクレアに買い与えたこの魔法書は、魔法を創りだしたと言われるロッドメン一族を信奉している協会が出版した本だった。
なんとこの老人は、その協会の一員だと言うのだ。
「この魔法書は色々と苦労してのお。あれは十五年前の事じゃあ。ある夏の盛りの日にのお」
「ねえエリクのおじさん。何で奥さんがいるのに冒険者なんてしているの?」
満腹になって退屈になったのか、それともネテス老人の長話を阻止しようとしたのか。クレアは生来の空気を読まない性格を如何なく発揮して来た。
「馬鹿だなクレア!別れたからに決まってんだろ!大人には色々事情があるんだよ!で?
何で別れたのエリクのおっさん?」
子供達の好奇心満載の質問に、俺は目眩がして来た。
「これこれ子供達。人には触れて欲しく無い過去がある物じゃ。ワシにも色々あるぞい。
そうじゃなあ。少し長くなるが話すかのお。
明け方までは話し終えると思うがのお」
「······十年前、俺は村の小役人だった」
老人の有り難くない長話を阻止する為に、俺は仕方なく昔話を始めた。
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