第33話 乗りかかった不吉な船
「ワシの名はネテスじゃ。皆の衆よろしゅう頼むのお」
シワだらけの顔に満面の笑顔を浮かべ、
卵泥棒の老人は何故か虹の塔への案内人になり仰せた。
「悪いが俺は抜けさせて貰う。理由は危険だからだ」
俺は全員に聞こえるようにはっきりと宣言した。イバトとクレアも神妙に黙り込む。
「白髪混じりのお若いの。それは止めて置いた方がいいのお。ワシ達は監視されておるぞお。さっき襲って来た地底人と騎士達にのお
」
ネテス老人の言葉に、俺は反射的に周囲を伺う。森の景色の中には、奇しい人影は確認できなかった。
「奴さん等はバレるような監視はしとらんよ
。単独でここを離れれば、たちまち袋叩きにされるぞい」
俺は判断に迷った。このネテス老人の言葉を信じるか否か。冒険者と言う生業をしていると、こんな類の決断をいつも迫られる。
賭けるのはいつも自分の命と安全だ。俺は今まで自分の命を安っぽく扱い、賭けてきたのだ。
「エリクのおっさん。俺達と一緒に居たほうがいいよ。人数もいるしさ」
「そうよエリクのおじさん。乗りかかった船だし、一緒に行きましょう」
イバトとクレアが心配そうな声をかけてきた。
「······途中迄だ。安全と判断すれば、俺は抜けさせて貰うぞ」
俺はこの連中と同行する事を選んだ。俺は今まで選択した決断が間違っていなかったから生き残れた。
だが、今回の判断が正しいのかどうか、俺は全く自信が無かった。
「この森を北に進むぞい。余り時間は無い。夏至まであと三日じゃからのお」
ネテス老人は俺達には意味が分からない事を呟き、ユリサの前に立ち両手を上げた。それはまるで、幼児が親に抱っこをせがむ格好に見えた。
「こんな老体を歩かせる気か?娘よ。抱っこせい」
ユリサ以外の全員がネテス老人に呆れた視線を送る。だが、ユリサは苦笑しながら老人を背中に抱えた。
俺が深いため息をつくと、背後からコルカが小声で囁いてきた。
「······あのユリサと言う女を余り信用するな
。あいつは何処か怪しい」
「······コルカ。それはユリサが騎士達とまだ繋がっでいると言う事か?」
ユリサは俺達の目の前で騎士達と決別宣言をした。それが偽りだと四手一族の男は言っているのだろうか?
「そこまでは分からん。だが、あの女は何か臭う」
コルカはそう言うと、洞窟内に旅道具を取りに戻った。地面に眠る竜を見下ろしながら
、俺はこれから容易に想像出来る困難を思いため息をついた。
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