第31話 裏部隊の脅威

「抵抗する者は斬れ!」


 レメル隊長が無情な命令を下し、九名の騎士達は整然と動き出す。俺達はあっと言う間に包囲された。


「ユリサ!前言を撤回するんだ!コルカも竜を渡すと言うんだ!」


 俺は後ろの二人に叫んだ。ユリサが所属する裏仕事を片付ける部隊。そんな連中と戦ったら、命が幾つあっても足りない。


「······それは出来ませんエリクさん!私は大きな災厄を生む聖竜を放ってはおけません!


「問答無用で奪いに来る。こいつ等は盗賊と何ら変わりは無い。盗賊にくれてやる物など俺は持ち合わせていない」


 ユリサとコルカが申し合わせた様に声を揃えて宣言した。それは、騎士達への宣戦布告

に他ならなかった。


 俺の横を何かが通り過ぎて行った。俺はそれを目で追うと、ユリサが凄まじい速さで騎士達に突進して行った。


「はああっ!!」


 ユリサの瞬発力に不意を突かれた騎士の一人は、胸部をユリサに蹴られ後方に飛ばされた。


 だが、ユリサの左右の騎士二人が素早く剣をユリサに向ける。鋭い二つの斬撃は空を切った。


 ユリサは腰を落とし剣を避けると、長い足を円を描くように回し二人の騎士の足を払った。


 二人の騎士は均衡を崩し倒れる。そこに大剣を握ったコルカが飛び込んで来た。洞窟の出口ではたちまち乱戦模様になる。


 俺とイバト、クレアの三人には四人の騎士が迫って来た。一人の騎士と剣を合わせた俺は直ぐに分かった。


 裏の部隊と言うだけあってこの騎士達は相当な実力者達だ!イバトは俊足を使おうとしたが、三人に囲まれ動けない。


「クレア!離れていろ!乱戦では呪文は使うな!味方まで巻き添いにしてしまう!」


 俺の言葉に、クレアは不安な表情を浮かべ洞窟の入口に向かって後退する。くそっ!相手の数が多過ぎる!


 俺達は徐々に騎士達に追い詰められ、一箇所に固まるように後退した。完全に包囲され、逃げ場は無かった。


「諦めろユリサ。お前達は全員国家反逆罪で拘束する」


 レメル隊長が冷酷な表情と台詞を俺達に向けた。駄目だ。もう勝ち目は無い。その時、俺の足元で何かが地を這うように動いていた。


 それは、洞窟の奥で眠っていた筈の聖竜だった。大蛇程のその大きさは、外見からはとても聖竜とは思えなかった。


 白き竜は閉じていた両眼を開き、俺達を包囲していた騎士達に向ける。その瞬間、俺の身体に異変が起きた。


 心臓が凍りつくような悪寒。全身に立つ鳥肌。足元は小刻みに震え、凍えたかのように歯をカチカチと鳴らしていた。


 ······何だこれは?一体俺の身体に何が起こっている?俺は辛うじて周囲を見回す。すると、この場にいる全員が俺と同じように固まっていた。


「······ひ、退けぇ!!全員撤退だ!!」


 レメル隊長が引きつった口を開け、部下達に大声で命じた。騎士達は固まった身体を動かし、恥や外聞を捨て必死に逃げるように去って行った。


 聖竜はそれを見届けると、ゆっくりと身体を動かしコルカの足元に座った。


「······全員感じただろう。今のは聖竜が放った殺気だ」


 脂汗を流しながらも、コルカは冷静な口調でそう言った。俺達は再び両眼を閉じた白い竜を凝視していた。






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