八月下旬

「よいしょっと」

 瑠瀬の退院は、思ったよりも早かった。体に鞭を打った結果だ。それが悪い方に転ばなかったのも幸いした。

「瑠瀬。どこか行きたいところはある?」

 濃子が聞いた。

「まずは家に帰りたい。その後はまた、遊水地を歩きたいな。でも勉強もしないと…」

 瑠瀬の調子は、記憶を除けば完全に元通りだ。寧ろ何かしら意欲を感じさせる。

「濃子」

 瑠瀬の方から切り出した。

「俺、やっぱり濃子を選んで良かったと思う。俺が眠っている間、ずっと側にいてくれたんだろ?」

 濃子は首を縦に振った。

「中学に上がってからあんまり交流なかったのにこんなこと言ったら、変かな…。俺は濃子のことが一番好きだ」

「…!」

 瑠瀬の顔は真っ赤に染まっている。それを聞いた濃子の顔も、同じくらい赤い。

「じゃあ、一緒にいてくれる?」

 濃子が聞くと、瑠瀬は、

「もちろん。俺はそれで幸せだけど、濃子はどう?」

「私だって、幸せだよ。瑠瀬と一緒にいられるし、それで瑠瀬が幸せになれるならなおさら、ね!」

 二人は、瑠瀬の父が運転する車に乗って、遊水地方面に向かった。

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