運命の日 その五
パラ、パラっと濃子の上から塵が少し落ちて来た。
「な、何、コレ?」
反射的に瑠瀬は見上げた。ちょうど濃子の真上あたりの天井に沢山亀裂が走っている。そこから小さなコンクリートが、落ちて来ている。
天井が落ちる。さっきみたいに。
瑠瀬は動き出した。その動きはゆっくりで、あまり速いとは言えない。でも瓦礫が濃子に落ちてくる前に、彼女を押し出すことはできた。その直後に、瓦礫が落ちる音がした。
「きゃっ!」
押された濃子は尻餅をついた。その一瞬だけ目を閉じてしまった。次に開けた時、目の前に瑠瀬の姿がなかった。
「ぐぐ…」
瑠瀬はその場に倒れていた。瓦礫の一部が、その体に直撃したのだ。
「瑠瀬?」
微かに手が動くだけで、返事がない。体の右半分は、血で赤く染まっている。
「嘘でしょ、瑠瀬? 瑠瀬!」
濃子の代わりに、瑠瀬がテロで負傷してしまった…。
その事実に直面した濃子は、悲しみと罪悪感に包まれた。
「そこにいたか!」
「濃子、オマエは動くな! 源治が応急処置をする。オレが救助を呼んでくる!」
平祁と源治が駆け付けた。
「源治…。瑠瀬は、瑠瀬はどうなっちゃうの?」
「出血が酷い。病院まで持てば何とかなるだろう。アナタの方は大丈夫なのか?」
濃子は全身を自分の手でまさぐる。怪我はない。
「…大丈夫そうだな。なら良かった。今は瑠瀬の手当てを優先しよう」
平祁がすぐに戻って来た。
「駄目だ。どこもかしこも、爆弾とガスでやられている。待っていても救助隊がここに来る可能性は低い」
「そ、そんな…」
言葉を失う濃子。
「まだ諦めるな! 若干どころか結構危険だが、運ぶしかないだろう。源治、オマエはどうする?」
「アナタに同意。ここで腐っていても、意味はない。ならば少しでも可能性が高い方に賭ける」
源治と平祁が瑠瀬を担ぐ。濃子は後ろから付いて行く。
「もう少し、ゆっくりだ」
「わかった」
少しずつ前に進んでいく。もう出入り口は滅茶苦茶に破壊されており、観客席があったところから直接外に出ることができた。
「あ、救助隊が…」
救急車がそこにちょうど、到着した。そして救助隊が複数人、濃子たちの方にやって来る。
「止血はある程度できました。まだ呼吸があります」
源治が報告する。しなければ、助からないと思われてしまうだろう。そう判断された場合、瑠瀬には治療が一切施されなくなる。
「運転手。負傷者一名を運び込む。すぐに近くの病院に向かえ」
瑠瀬は救急車に運び込まれた。
「濃子。オマエが病院まで一緒に行ってやれ。ついでに自分の体も診てもらうんだ」
「わかったわ、平祁。あなたたちはどうするの?」
「ワタシたちは、救助を手伝ってみる」
源治がそう言って、煙を上げる他の施設の方を向いた。
「そう…。二人とも、気を付けて!」
「わかっている」
「任せてくれ」
二人はそう返事をした。そして約束もした。
「後で必ず、会いに行く」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます