運命の日 その一

 ここはどこだろう? 瑠瀬は周囲を見回す。どうやら建物の中で、自分はベッドに横たわっている。でもホテルではないようだ。

 横で誰かの泣き声がする。声の方を向くと、濃子が泣いている。

「濃子、ここはどこだ? オリンピックは、テロは?」

 いくら瑠瀬が問いかけても、濃子は何も答えない。ただ涙声で、

「私のせいで、ごめんなさい…」

 と繰り返す。

「一体何がだよ!」

 怒鳴りながら濃子の肩を掴んだ。それでも濃子は、全く反応してくれない。

 仕方がないので、瑠瀬は起き上がろうとした。だが、できない。毛布から抜け出せない。まるで体が固定されてしまっているみたいだ。

「どうなっているんだ?」

 理解に苦しむ状態にさらに拍車をかけるかのように、濃子の周りに同級生たちが現れた。

「濃子が悪いんじゃないよ」

「誰にも予想できなかったんだから」

「泣いちゃ駄目よ」

「きっと瑠瀬様は目を覚ましますわ」

「濃子がしっかりしないでどうするんだ?」

「瑠瀬君を信じろ…」

「ここで気を強く持たないと」

「彼は必ず戻って来てくれる」

「こんな終わり方、俺は認めねえぞ!」

「おい瑠瀬! 濃子を悲しませて楽しいのか!」

 最後に朋樹が、そう言った。

「悲しませる? 俺が濃子を?」

 朋樹に瑠瀬は聞いた。でも返答してくれない。逆に胸ぐらを掴まれて、

「ふざけんなよ、瑠瀬!」

 と怒鳴られた。

「何が、どうなってるんだよ? 濃子がどうしたって…」

 ここで瑠瀬は気がついた。もしかして濃子が…。

 濃子がテロで、命を落としてしまった……。

「嘘だろ…。だって濃子は目の前にいるじゃないか!」

 朋樹に向かって叫んだ。

「側にいてやることが、お前の役割だろうが!」

 やっと会話が成立したかに見えたが、返事というよりも、朋樹がそう言う直前のタイミングだったために勘違いしただけのようだ。

「俺が…。濃子の側にいてやれなかった…?」

 頭が真っ白になりそうだ。朋樹の腕を振りほどくと瑠瀬は頭を下げ、頭を抱えてうずくまった。

「濃子…。濃子ぉぉ!」

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