第二話 決戦の日

 時は来た。今日、全てが決まる。陽一たちが生き残るか、雨宮が皆殺しにするか。

 晴天だ。雲一つない。でも油断できない。雨宮の[ペテントス]は天気を変える。今日は気温が高く、風も穏やかだが急に変わる可能性がある。

「[ミルエル]は召喚しときますか?」

 陶児に尋ねた。[ミルエル]は前に雨宮に見られている。だが陽一たちの持つ式神の中で一番行動範囲が広いし移動速度も速い。

「緊急時でいいだろう。下手に召喚して見つかって、警戒されることも考えられる。[クガツチ]と[ヤマチオロ]と[アズメノメ]は持って来たんだろうな?」

「[アズメノメ]は久姫に譲りましたよ。俺が持っててもいらないんで」

「そうか。まあいいだろう」

 スマートフォンを取る。イワンに電話する。

「そっちはどうだ? 式神はいるか?」

「いないデス。ワタシたちのこともきっと感知できてないはずデス」

 一旦電話を切る。今度は繭子に電話する。

「怪しい人はいない?」

「今、目が見えないからわからない。[アテラスマ]を召喚する?」

「いや、やめておこう。式神を召喚すれば召喚士とバレてしまう」

「わかった」

 電話を切る。

「条件は最高っすよ、先輩」

「みたいだな。今十二時。二限が終わるまであと十分。勝負は一瞬だ。雨宮に式神を使わせる暇を与えないで[ノスヲサ]で切る。見かけたら知らせろ」

「了解」

 陽一は一応辺りを見回す。

「あれ。こんなところにこんな植物生えてたかな? でも何か見覚えあるような…」

「どうした?」

「いいや勘違いっすよ」

 時間は経つ。もう講義は終わった。学生がキャンパスからどんどん出てくる。その中に雨宮は…いない。

「もう十五分経つぞ。まだいないのか?」

 イワンに電話する。

「こっちもいないデス」

 雨宮は出てこない。

「今日風邪ひいて欠席してるってことは?」

「雨宮の[イグルカン]はどんな病気も治せるんだろう? 欠席する理由がない」

「じゃあどうして…あ!」

 今気が付いた。

「どうした陽一?」

 陽一はある一点を指さす。そこには木が生えている。その木にはつるが巻き付いており、バラが咲いている。

「これはあの女の…式神。[イグルカン]だ!」

「何だと!」

 こちらの動きは初めから監視されていたのだ。[イグルカン]によって。雨宮は自分たちが襲撃してくることを予想しており、だからここに予め[イグルカン]を召喚しておいたのだ。

「…てことは、俺たちが来ていることがバレている?」

「ここは一旦引きますか?」

 陽一たちは自分たちが不意打ちすることを考えていたが、もう通用しない。

「下手に動くのは危険だ。辺りを探れ。雨宮の顔がわかるのはお前とイワンだけなんだからな!」

 陽一は周りの人全員の顔を見る。何度も見返す。だが、いない。

「ここらにはいないっすよ! 今イワンに電話を…」

 ポケットからスマートフォンを取り出したところで陽一の全ての動作が止まった。

「どうした陽一?」

「あいつだ…」

 建物から出てきた一人の女。あの日、芝水園で見た顔。

「あれが、雨宮か!」

 雨宮の方から出てきた。

「やっぱり生きてたわねあんた…。どうやってあの状況から無事でいられたのか不思議でしょうがない。けど、ここで始末すれば何も問題ない」

 雨宮の横にはあの蛾の式神が羽ばたいている。

「あれが[ペテントス]? 力はそんなになさそうだな…」

「油断したら駄目っすよ! ああ見えても[ヨルガンド]を止めるぐらいの力がある!」

 陶児は札を出した。

「まあ力は関係ない。切ればいいだけだ。一瞬で。俺と[ノスヲサ]ならできる。陽一、お前は下がっていろ」

 後ろに下がった。後は陶児先輩の戦いを見ていればいい。

「その式神、風間から聞いた奴ね。あの刀に注意すれば大したことないわ」

「随分と舐められたものだな」

[ペテントス]がこちらに向かって飛んでくる。[ノスヲサ]が刀を構える。

「行け!」

「キュオオオオオオオオン!」

 急に[ペテントス]がスピードを下げた。

「何をする気だ…。あんな速さじゃ突っ込んでも切られるだけだぞ…」

 徐々に距離を詰めていく。もう刀が届く距離だ。

「[ノスヲサ]!」

 陶児が叫んだ。[ノスヲサ]がそれに瞬時に反応して刀を振る。が、避けられた。[ペテントス]が急にスピードを上げて上昇したのだ。

「何!」

「あんたたちなんていくらでも出し抜けるわ。[ペテントス]、落としなさい!」

 落とす…。何を?

 陶児は空を見上げた。急に雲行きが悪くなる。雨が降り出しそうだ。だが雨を降らせても雨宮は優利にならないはず。

「あれは…」

 一瞬だけ雲が光った。その光を見逃していたら、または瞬時に横に飛んでいなかったら陶児は雷に撃たれていただろう。

「落雷か…。そんなこともできるのか。だが」

 だが[ノスヲサ]の刀が当たれば、勝機はある。

「陽一。お前は建物の中に避難していろ。雷が直撃したらヤバい」

「わかったすけど、先輩は?」

「ここで雨宮を叩く!」

 二人とも空を飛ぶ[ペテントス]に目をやる。[ペテントス]はただ飛んでいるだけに見える。

「慎重ね。でもその方がやりやすい。行動が読みやすいわよ」

 あれは聞き入れてはいけない。雨宮はこちらを動揺させようとしているんだ。だから話しかけてくるんだ。

「[ノスヲサ]」

[ノスヲサ]が刀を振る。しかし届かない間合い。虚しく空を切るだけだ。

 隙だらけの[ノスヲサ]。だが[ペテントス]は攻撃を仕掛けて来ない。天気を操って攻撃することができても、上を見上げている相手には効果が薄い。だから[ペテントス]も直接攻撃してくると思ったのだが…。

 もう一度振る。それでも[ペテントス]は動かない。こちらの目論みが完全に読まれているのか…。

「ならば、これはどうだ!」

[ノスヲサ]が小太刀を取り出した。これを投げれば。投げて翅に当たれば[ペテントス]は飛べなくなって地面に落ちるかもしれない。だがリスクもある。小太刀は一本だけなのだ。外れたらこちらからは何もできなくなる。

「今だ!」

[ノスヲサ]が小太刀を投げる。

「やっぱりそう来たね。でもそんなの当たりっこない」

「ああ確かに当たらないな。何故なら…」

 陽一は[ノスヲサ]に注目した。まだ小太刀を持っている!

「今のは…フェイント?」

[ノスヲサ]は投げるふりだけして投げていない。一方の[ペテントス]は回避行動を取っている。その隙を見逃さなかった。一瞬の隙に小太刀を投げた。

「キュキュキュ…」

 小太刀が[ペテントス]の胸に刺さった。小太刀は電気を帯びている。[ペテントス]は痺れて動けなくなり、翅も羽ばたかせることができなくなった。そして地面に落ちた。

「良し、今だ!」

[ノスヲサ]が切りかかる。陶児は少し離れて指示を出す。

「コイツは…もらった!」

 刀で切り裂く。そのはずだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る