第八話 二人に近づく式神

 財布の中身を確認する。昨日新しいルアー買っちゃったからな、金がない。

「千円だけで済むと思う?」

 繭子に聞いた。

「絶対にたりないよ、ゴホ」

 やはりコンビニで下すしかない。でも後で小母さんに請求する。なら少しかかってもいいだろう。

 外は雨が降っている。繭子は杖を突きながら歩く。この時の陽一は前に学校で見せた警戒心は全くなかった。こんな町中で襲いかかってくるのはリスクが大きい。そう思っていたからだ。

「コンビニ、あったぞ」

 繭子と共にコンビニに入る。傘を畳んで傘立てに入れる。繭子の分は陽一が入れた。

 今繭子は目が見える状態じゃない。だから手を取って店内に入る。

「あー並んでるな」

 ATMには三人並んでいた。できるだけ早くしたいのに混んでいるのだ。

「どのくらいかかりそう?」

 早ければ一人で二分くらいだろうか? でも今ATMを使っているオッサンは四苦八苦している。

「これは…少し時間がかかりそうだな」

 待つのも面倒だ。病院に行く途中には他にもコンビニがある。

「ここはよそう。他のコンビニで金、おろすよ」

「わかった」

 繭子の手を取って除風室に入り傘立てに手を伸ばした。そこで陽一の行動が止まる。

「どうしたの、陽一?」

「…おかしい。傘が二本あるぞ」

「それはそうだよ。私のと陽一のと」

「いや、二本あるのは…俺の傘だ…」

 何で傘が二本ある? そんなことを思う前に右の傘がいきなり形を変える。

「うわ何だこりゃ!」

 それはデカいカメレオンになった。

「これは…式神だ!」

 絶対そうだ。そうじゃないはずがない。カメレオンの式神はこちらを睨んでいる。一旦店内に逃げる。

「繭子…[アテラスマ]の札は持ってきてる?」

「うん」

「じゃあいざとなれば…」

 話をしている間にもカメレオンはこっちにやってくる。口を広げて舌を伸ばす。これは簡単にかわせた。が、カメレオンは舌のくっついた商品棚の方に移る。

 この中で式神と戦うのは…。自分の持っているのでは危険だ。店内は狭いし他の客もいる。

 カメレオンが突進してきた。繭子を押し倒す。同時に陽一も倒れ込む。買い物カゴにぶつかった。カゴが散乱する。カメレオンはどこにもいない。

「どうかなさいました? お客様」

「変身することができる式神…。なら」

 カゴに目を向ける。式神は召喚士にしか見えない。この店員が召喚士とは思えない。

「ちょうどいい。店員さん、今すぐこのカゴを全部片付けてくれ」

「わかりました」

 店員はカゴを重ねはじめた。これで余ったカゴが式神。簡単に見分けがつく。

「おいちょっと待て」

 店員は片付け終えた。全てのカゴを。

 そんな馬鹿な…。この式神は人に見えるのか…? 変身能力を最大限に発揮するために。

「繭子! [アテラスマ]を召喚しろ!」

「もうやってる!」

[アテラスマ]がいる間は繭子は目が見える。

「この式神は俺が何とかするから、繭子はイワンを呼んできてくれ。バイパス沿いの青い屋根の一軒家だ」

 繭子がコンビニから出ようとしたが動作がそこで止まる。

「どうした?」

「あれは、何?」

 指をさす方を見る。コンビニの窓の外、雨の中にいるのはサメ。雨の中を泳いでいる。

「何だって…。こんなところにサメがいるわけない! あれも式神だ! こっちに寄れ繭子」

 今外に出るとあのサメに食われる? だからと言って店内に留まるものカメレオンがいる。

「これはやるしかないようだな」

[クガツチ]と[ヤマチオロ]を召喚した。敵なら容赦はしない。

 まず重ねられたカゴを確かめる。一つ一つ手に取る。三個目に手にしたカゴが変身した。気付いたのだが間に合わず、攻撃を食らった。

「ぐわ!」

 カメレオンは突進してくるだけだったが力が強かったので陽一は後ろに吹っ飛んだ。商品棚にぶつかる。棚から商品が大量に落ちる。

「今だ[クガツチ]! …いや待て」

 また変身しやがった。この床に落ちている商品の内のどれかが式神。じゃあ全部焼くか? そんなことしたら弁償させられる。

「陽一!」

 繭子がこっちに来る。カメレオンは繭子目がけて舌を伸ばす。繭子は驚いて避けることができなかった。

「きゃああああ!」

 繭子に飛び乗るとすぐ蹴飛ばして隣の棚に移る。

「このクソカメレオンめ! 絶対焼き尽くしてやる!」

 方法はもう思いついた。それを実行するだけだ。

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