第四話 苦戦する陶児

 一方の陶児も菊子との戦いの最中だ。

「あんたの式神…聞く話によると刀に電流が流れてるんだってね。それは厄介ね。でも私の[ヤタガロウ]を甘く見ないことね」

「あんなのはハッタリだ。行け[ノスヲサ]!」

[ノスヲサ]が刀を掲げて切りかかる。このままでは確実にあの[ヤタガロウ]という式神に当たる。のに、[ヤタガロウ]は避けようとしない。何故だ?

 刀が振り下ろされた。が、その間際に[ヤタガロウ]が消えた。

「札に戻した?」

 いや違う。式神は札にかざさないと戻せない。菊子はそんなことをしていない。

「うぐぅ!」

 背中を殴られた。振り向くと[ヤタガロウ]がいる。いつの間に?

「そんな馬鹿な! 目を離してないのにどうして後ろに回り込んでいる?」

 菊子はニヤニヤした。

「さあ[ヤタガロウ]。もう一発食らわせなさい!」

「[ノスヲサ]!」

[ヤタガロウ]の拳を[ノスヲサ]の刀でガードする。が、[ヤタガロウ]はまた消えた。

「何!」

 急いで後ろを振り向く。そっちにはいない。なら右か? いやいない。

 ほんのわずかな風が吹く。髪が少しだけ揺れ動く。

「上か!」

 見上げるのではなくしゃがんで横に移動した。[ヤタガロウ]は上から降って来た。その拳が地面に当たる。[ヤタガロウ]の動きがわずかだが止まる。その隙に[ノスヲサ]が切りかかる。

「またか…」

 刀が当たる前に消える。[ノスヲサ]の後ろに回り込み、蹴りを入れてきた。[ノスヲサ]が前にのけ反る。

「あの式神…瞬間移動か何かができるのか」

 菊子がパチパチと拍手する。

「そうよ。やっと気付いたのね。あんたの式神の攻撃は[ヤタガロウ]には通用しない」

 ならば、菊子自身を攻撃するまで。

「[ノスヲサ]! あの女に切りかかれ!」

 式神の攻撃は防御しなければいけない。[ノスヲサ]の刀をもろに喰らったら体は切られてしまう。[ヤタガロウ]は[ノスヲサ]の刀を受け止めるしかない。だが刀に触れれば痺れて動けなくなる。

「[ヤタガロウ]。戻ってきなさい」

 やはり式神を自分の前に戻した。だがこちらの攻撃は止めない。

[ヤタガロウ]は菊子の手を握る。すると[ヤタガロウ]は菊子と共に消えた。

「あの式神…人すら瞬間移動させることができるのか!」

 思えば陽一のクラスメイトが見つからないのには理由がある。陽一によれば三人は殺されたという。だが死体が見つかっていない。雨宮が一人で三人分の死体を移動させたとは考えにくい。何かを移動させることができる式神がいなければいけない。その答えが[ヤタガロウ]だ。

 次の攻撃もそのまた次の攻撃も瞬間移動でかわされる。[ノスヲサ]の刀が虚しく空を切るだけで、その間に[ヤタガロウ]は攻撃し放題だ。

「まずいな…」

 思った以上に厄介だ。[アポロニア]と[リオネッタ]を早くに破壊したのは良いが、その後のことを頭に入れていなかった。

 久姫の方を見る。あちらも相当追い込まれている。

「応援はできないし要請も無理か…。コイツさえ何とかすれば…」

[ヤタガロウ]さえ破壊すれば久姫の手伝いに回れる。だが、肝心の[ヤタガロウ]には攻撃はおろか、触ることさえできていないのだ。

「諦めたらどうよ? 色々と教えてくれるなら命だけは考えてあげてもいいわよ?」

「うるさい!」

 降参は考えない。絶対に勝つ。今考えるべきなのはそれだけだ。

「俺は、俺たちは絶対に諦めない!」


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