第三話 先制攻撃はいいが…

 校舎から出てくる男子の顔を一々確認する。

「全然来ない…。今日はもう帰ったのかもね。どうする菊子?」

「最後の一人まで徹底的にやるわ。そうでなければ良い報告ができないじゃない? そう思わない静香?」

「じゃあそうしましょう」

 三人の顔はわかっている。でもなかなか見つからない。日を改めた方がいい気もする。

「そもそも私たちのことを警戒して学校を休んでたりとかは?」

「あり得るわね。でもいつまでも休んでいられる? そもそも三人は私たちのことを知らないわ」

「それもそうだけど」

 日が暮れる前には引き上げたい。そう思っていると、

「うわ、気持ち悪い! 何それ!」

 後ろで誰かがそう言った。振り返るとこの学校の女子生徒が一人。自分の腰に付いているキーホルダーを指さしている。

「これが気持ち悪いって? いやねえこの可愛さがわからないの?」

「これ、何て言う虫?」

「ヒヨケムシとタランチュラとオブトサソリよ。このキーホルダー、手に入れるの苦労したんだから」

「ちょっと静香! そんなの相手にしない! 探すことに集中しなさい!」

「わかったー」

「いいや探し物は終わりよ!」

 女子高生はそう言う。

「え…」

 目の前にいるのは、人魚? いや式神! コイツは召喚士だ!

「菊子…。この子召喚士だよ! 聞いてないよこんな子は」

「やっぱり他にも仲間がいたわけね。ちょうどいいわ。ねえあなた、陽一とかイワンとか陶児とか…どこにいるか知らない?」

 本当に仲間なら答えないだろう。でも、そんな時にこそ役立てるために式神を借りてきている。菊子は召喚する。あれは心を操る式神、[アポロニア]だ。

「これで操ればすぐにわかるわ。静香、式神の方の処理をお願…」

 後ろから何かが飛んできた。そしてそれは[アポロニア]に突き刺さった。

「何これ!」

 これは…小太刀? こんなものがどうして? 式神に刺さっているということは…?

 二人は一緒に振り返った。


「作戦成功だな、八幡」

 やっぱり私のことまでは把握してなかった。もし知っているなら女子の顔を確認しないのは変だ。そして今小太刀で突き刺したのは陽一君から聞いていた心を操る[アポロニア]だ。

「その式神はもう終わりだな。崩れ始めてる。これは雨宮の式神じゃないのか? 借りてきてるなお前たち」

 二人は完全にしまった、という顔をしている。

「コイツめ…」

 片方の女が新たに式神を召喚する。

「[リオネッタ]! この子に憑りつきなさい!」

 久姫の方に[リオネッタ]が向かう。すかさず[レヴィアシス]がガードする。

「この式神…。壁か何かを作り出してる。そうじゃないと[リオネッタ]が憑りつけないはずがない! どうする菊子?」

「徹底的にやるわよ、静香。[ビペルンア]を召喚しな。[ビペルンア]なら壁なんてどうってことないでしょ。私は[ヤタガロウ]を召喚してこっちの男、いや陶児と戦うわ」

 あの木製の人形みたいな式神は聞く話によると[リオネッタ]。体を操る式神。あれに触れられたらアウトだ。

「一旦バリアを消して攻撃できない、[レヴィアシス]?」

「このしきがみのつよさがわかりません。わたくしのてにおえなかったらきけんです」

 でもこのままだと硬直状態…。何も変わらない…。

「バリアは消すな! 張ったままだ!」

 陶児さんがそう言った。

「ええ! でも、そうすると[リオネッタ]に攻撃できないわよ?」

「それは俺がする!」

 また小太刀が飛んできた。今度は自分に向かって、だ。

「ひえええ!」

 バリアを張っていなかったら自分に刺さってる。危ないことしないでよ陶児さん!

「グエ!」

 飛んできた小太刀はバリアに跳ね返され、向かった先には[リオネッタ]の頭。

「そうか! これを」

 このためにバリアを消すなって言ったんだ。

「よし。[リオネッタ]も倒したぞ。どうしたほら、何か仕掛けてこなくていいのか?」

「おのれガキのくせに…。どうする菊子?」

「ゲハハハハハ! 借りた式神で戦っても詰まらないと思ってたところよ。本気を出すわよ静香!」

 二人の式神が召喚される…。一体どんな式神なんだ?

 菊子と言う人が召喚したのは天狗のような式神。もう片方の静香って人はムカデ。

「これがあなたたちの本当の式神…!」

 ムカデの方は私の方を向いている。

「さあ行きなさい、[ビペルンア]!」

 そう叫ばれると[ビペルンア]は久姫の方に突っ込んでくる…と思ったが違う。地面を掘り始めた。いや、アスファルトを掘ることはできない。よく見ると地面を掘ってはいない。めり込んでいるというか、何と表現すればいい?

「よく見てなよ。私の可愛い[ビペルンア]は目的のもの以外触れることはできない。自から触れることもね」

[ビペルンア]が完全に消えた。地面の下に潜り込んだ。何をする気?

「あぶない!」

[レヴィアシス]が叫ぶ。そっちに目をやると校門の煉瓦から[ビペルンア]が出てきている。目的のもの以外触れられないってこういうことか! 目的になっているのは私。それ以外の物質は水のように透過できるんだ。

「[レヴィアシス]! バリアを!」

 叫ぶまでもない。[レヴィアシス]はバリアをもう張っている。だが、

「通過した?」

[レヴィアシス]のバリアが通じない? 嘘でしょう?

「あぶないくきさま!」

[レヴィアシス]が自分を押し倒す。久姫は地面に倒れ込んだ。[ビペルンア]はその上を通過した。今倒れ込んでいなかったら確実に噛まれていた。

「おしい。あと少しで噛みつけたのに。そうすれば神経毒を注入して、動けなくさせることができたのに。式神に噛みついても毒は回らないし、あの式神が邪魔ね」

 バリアが効かない[ビペルンア]。[レヴィアシス]が触ることすらできない。それでは勝つ方法がない…。

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