第二話 二人の手下
「ええっと…」
確かこの人が陶児って人よね? 威圧感が凄い…。
「何か用か?」
うわあ質問された。
「えっと、その、何て言うか…」
「何が言いたい?」
その何かが明確ならこんなに取り乱したりしないわよ!
「よ、陽一君から話を聞きました…。私は、あの…」
敵じゃない印を見せた方がいい? でも何か…[アズメノメ]? それだとまるで陽一君を倒して奪ったみたい…。
「知っている。一年二組の八幡久姫だろう? 確か学級委員だったはずだな。陽一のクラスの」
ああ良かった。この人は私のことを知ってた。これならコミュニケーションには困らない。
「今日はどこかに行くんですか?」
「どこかと言うと?」
どこだろう? 自分で行っててどこも考えてない。
「あの雨宮のことで…」
「ああ、雨宮か。今日も少し調べものをするつもりだ。あいつは野放しにはできないからな」
「野放しにしないって言っても、実際にはどう対処するんです?」
陽一に聞き損ねたこのことを聞いてみよう。
「流石に殺す、とかはしませんよね?」
この人たちなら本気でしかねない気がする…。
「それは…しない」
なら安心だ。
「だが…」
何かあるの?
「だが、万が一危険過ぎると判断したら殺すことになるかもな…。雨宮自体でどうなるかが決まる。俺たちだって殺人は不本意だ。できればしたくないが。雨宮の式神を全て没収あるいは破壊できれば誰も傷つかずに終わらせることができるかもしれない」
「でも、召喚士は式神を作ることができる…。新しい式神を用意して逆襲してきたら?」
「雨宮がそういう人間なら、今のうちに殺すしかないかもしれない…。式神での悪行なんて法律で裁けないからな、これまでしてきたことについてはどうするかはまだ決めていない。厳重注意とかも聞き入れない可能性もある…。戦ってみて、勝ってみないとわからないな」
「勝てる、んですか?」
「そう思わないとやっていけないぞ、八幡」
雲行きが怪しい。本当に首を突っ込まない方がいいのかも…。
風間を失ったのはデカい。支配下の召喚士で唯一まともな人間だったからだ。
わかっていることを整理する。自分を追っているのは辻本陽一、イワン・チュルヌイフ、高浜陶児。この三人。他にも仲間がいる可能性は十分あるが、こちらはその三人しかわかっていない。逆に言えばその三人さえ始末できれば、追っ手はいなくなる。
「しょうがない…」
スマートフォンを手に取り、メールを打つ。
数十分すると二人は現れた。
「呼びました? 先輩」
「何か困りごとでも?」
「三人の内、誰でもいい。消してきて」
「わかりました」
二人向かわせれば十分か。いや、この二人は式神を一体ずつしか持っていない。陽一とイワンは明らかに三体は持っている。戦力的に心配だ。
「これを持って行きなさい。絶対に破壊させないでね」
二人に札を渡す。
「これ…。いいんですか?」
「そうでもしないと勝てない可能性があるの。念のためよ」
「私たちなら大丈夫ですよ」
物部は受け取ろうとしない。
「本当に?」
睨みつける。すると素直に、
「わかりました」
そう言って受け取った。
「これがあれば私たちは敵なしよ。ゲハハハハハ!」
蘇我が笑い出す。
「とにかく早くしてね。あなた達には期待してるから」
そう言って二人を見送った。そしてまたスマートフォンを手に取り今度は電話をかける。
「私のメールを無視するとはあんたも随分と偉くなったわね? 今どこよ?」
「…俺は俺で忙しいんだ。少しは俺たち自身のことを考えさせてくれよ。奴隷じゃないんだ。俺は俊樹とは違うんだ」
「言い訳はいいから、あんたにも動いてもらうよ。わかったね?」
「…具体的に何しろと?」
「蘇我と物部は宮沢高校に向かった。あんたはそうね…。自分から動いてくれると助かるんだけど、しないでしょう? バイパス沿いにイワンっていうロシア人の家がある。その前で待ち伏せしなさい。雨は降らせてあげるから」
「…わかった」
その一言で電話は切れた。
陶児さんは調べものをするという。気になって付いてきた。何やら古い資料を大量に持って来た。そして他に誰もいない食堂の机の上に置いた。
「どうするんですコレ?」
「雨宮が大学生ということはわかった。俺の考えが正しければ盛岡に来たのは大学に通うのに実家からだと遠すぎるからだ。恐らく一人暮らししていると考えられる」
「でもこれはそれと関係ないでしょう?」
持って来たのは古くて日付が二年前の新聞紙。
「雨宮は今年三年生だ。三年目に突入しているんだ、短い間かもしれないが何かしら事件を起こしてる可能性がある。それを調べよう」
「この山から?」
「嫌か?」
協力できるならする。そう決めたんだ私は。
「私にできることがあれば…」
「なら早速頼む」
陶児さんは作業を黙々と続ける。自分も見よう見まねで作業をする。
作業が終わったのは五時半だった。もうお腹ペコペコ。
「今日も手がかりなしか…。わかってはいたが相当手強い奴だ」
「それより陶児さん、お腹減りませんか?」
「いいや」
信じられない。あんなに作業をしていて疲れないのこの人?
「でも今日はもう帰るか…。ん?」
陶児さんは窓の外に視線を向けている。顔の方向からして校門の辺りを見ているのだろうか?
「あれは誰だ? この学校の教師ではないな…」
「生徒が忘れ物を取りに来たとかは…?」
「こんな時間にか? 帰り道で引き返すならわかるが、二人とも私服だ。電車とかバスとか乗り継がないと登校できないのに、一度家に帰ってから取りに来るか普通?」
「つまりこう言いたいんですか…。怪しいって」
「そうだ。あの動きを良く見てみろ」
言われた通りに見てみる。男子の顔を見ては向きを変える。そんな感じの動きだ。
「誰か探してるんですかね?」
「…」
急に陶児さんが黙り込んだ。
「どうしました?」
「これはなあ、こう考えなきゃ駄目だ。雨宮に俺たちの学校がバレた。人の顔を見るのは何でだと思う? 探してるのは誰だと思う?」
「…ま、まさか…」
「すぐに陽一とイワンを呼べ。八幡、君はここに残れ」
「だ、駄目です…」
「どうしてだ?」
陽一君は用事があると言ってすぐに下校した。イワン君もそれに便乗して帰った。
「二人は、今日はもう帰りました…」
「くっこんな時にか! まずいな。二体一では絶対に不利だ」
陶児さんは戦う気満々だ。ならば自分も!
「私も行きます!」
すると陶児さんは驚いて、
「本気なのか? 相手によっては無事に帰ることはできないんだぞ?」
ここで引いたら負けだ。戦いにも雨宮にも。
「本気です!」
陶児さんは少し考える。
「あの二人は俺のことは知っているはずだ。でも八幡、君のことは知らない。少々卑怯かもしれないがそれを利用しよう」
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