第六話 ヒートアップするバトル
「ど、どうしマス? 陶児サン?」
イワンは陶児に聞く。
「これはやるしかないらしいな。ちょうどいい。人は見た感じ俺たち以外にいない…」
「でもさすがに殺すノハ…」
「それはしない。俺たちは雨宮の情報をまだ名前と学部しか掴んでいないんだ。あの男からそれ以上のことを聞き出す。それが手っ取り早い」
男は後ろに下がる。
「俺の名はな、風間俊樹。この理工学部の二年生だ。お前たちはまだ高校生だろう?」
「何が言いたい?」
「経験の差って奴があるってことだ。わずか二年だと思うか? でもその二年が超重要なんだぜ? そして…二人とも生きては返さん!」
風間はさらに後ろに下がって札を二枚取り出した。そして式神を召喚する。
「あれがあの男の式神…」
恐竜っぽいのが二体出てきた。
「どうします陶児サン。もっと近づかないとワタシの式神が力を発揮できまセン。前進しまスカ?」
「駄目だ。お前の式神はもうあの男にバレていると考えていい。[ヘールル]の力は使わせてくれないだろう。[エンリル]はどうだ? この距離からでも大丈夫か?」
「問題ありまセン。いけマス」
「よし。召喚しよう」
陶児は[ノスヲサ]を、イワンは[エンリル]を召喚した。
「ほほう。やっぱし召喚してくるよなあ! でもイワンの式神の力は既に知ってるんだぜ? [ステケラン]、前に出ろ!」
ステゴサウルスっぽいのがイワンの前に来る。こんな動きの鈍そうな式神で戦いを挑んでくるのか。経験とか言ってたくせにハッタリか?
「[エンリル]!」
イワンが叫ぶと[エンリル]は光を放った。眩しすぎるほどの光だ。そこで怯んでいる隙に一気に攻める。
「行ケ! あの式神を破壊シロ!」
[エンリル]が雄たけびを上げて突進する。が、そこに式神はいない。
「ナ? ど、どこに消エタ?」
「後ろを見ろよ」
振り返る。そこには[ステケラン]の姿が!
「そんな…。一瞬でこんなに移動できるはずがありまセン!」
「できるのさ。お前の[エンリル]のお蔭でな。[ステケラン]は特殊な式神でな、特別な力は持ってない。だがその背中の帆に当たった光によって運動能力が決まる。今お前の式神は光を放った。その光を原動力に[ステケラン]はお前の後ろまで一瞬で移動したのさ」
「ク…」
「さっきも言っただろう。お前の式神は雨宮先輩から全部聞いてるんだぜ。情報と経験。その二つが俺に味方している!」
こういう時どうすれば…。
「イワン! 持ってる式神を全部召喚しろ! 知られているならいっそのこと、こそこそしないで数で押し切った方がいい!」
「わかりまシタ!」
言われた通り持っている全ての式神を召喚した。
「あの[ヨルガンド]って式神の力は特に聞いてないなあ。破壊されたはずだが残ってるってことはそういう力? [ヘールル]は毒だろう? 結構厄介だなあ! でも近づかれなければ関係ない」
陶児が[ノスヲサ]と共に突っ込む。
「さっきからべらべらしゃべりやがって…。だが[ノスヲサ]の力は知らないだろう?」
「その式神、武士っぽくてかっこいいな。でも[パイラスル]の方が強い。試してみなよ?」
陶児の前にはスピノサウルスっぽい式神がいる。これが[パイラスル]と言うらしい。
「ならば受けてみろ! [ノスヲサ]の刀を!」
[ノスヲサ]が刀を振り下ろした。[パイラスル]は爪で弾く。
かわされたか…。だが追撃だ。
「な、何だこれは?」
[ノスヲサ]の刀が回転している。[ノスヲサ]の手から落ちてしまった。地面に落ちた刀は回転をやめない。これが[パイラスル]の力か!
「残念だったなあ! まず式神から破壊してやるぜ。行け、[パイラスル]!」
しかし[パイラスル]は動かない。
「どうした?」
陶児はニヤリと笑った。
「本当に情報と経験で生きているみたいだなお前は。そういう生き方では知らないことに直面したら終わりだ。違うか?」
「この式神の力か!」
「そうだ。[ノスヲサ]の刀はほんの少しだが電流を帯びている。触れれば痺れてしばらく動けない。イワン、今だ! [ヨルガンド]の一匹をこの男に向けろ!」
陶児は叫ぶ。しかしイワンは指示を出さない。
「どうしたイワン?」
「あの男が一々後ろに下がっていたのがわかりまシタ。あっちは日なたデス。[ステケラン]にいざと言う時、自分を守らせるために日なたに移動していたんデス」
経験の差か…。この男は自分の状況を完璧に把握している。式神は[ステケラン]と[パイラスル]だけだが、それを上手く使いこなしている。こっちの方が式神の数は多いが、力は全て知られた。情報が揃ってしまった。あとは経験で戦うつもりだ。
[パイラスル]が動いて風間の方へ行く。痺れが取れたのだ。
「一旦立て直しましョウ。あの男の式神はあの男からそんなに離れることはしないはずデス。作戦を立てましョウ」
「そうだな…」
だがどうする? [ノスヲサ]は刀を二本持っているが、今手元にあるのは短刀。リーチが短い。それに対して[ステケラン]も[パイラスル]も長いしっぽを持っている。[ステケラン]の方はしっぽの先に棘まで付いている。あれを喰らったらまずいことは目に見える。[パイラスル]も駄目だ。回転させられてしまう。
「何突っ立ってんだあ? 早いとこ終わらせて勝利の報告がしてえんだよこっちは。そっちからこねえんなら…行くぜ!」
風間はポケットに手を突っ込んだ。まだ式神を持っているのか――いやあれはネジだ。何でネジなんかを持っている?
「[パイラスル]! やれ!」
風間は[パイラスル]にネジを渡した。[パイラスル]は投げの構えの姿勢をした。
「何かしてくるぞイワン!」
陶児はイワンのことを突き飛ばした。同時に自分も後ろに飛ぶ。そして二人の間に何かが飛んできて横切った。さっきのネジだ。ネジは近くの木に当たるとそれにねじ込まれていく。
「何ですか今ノハ?」
「あの式神の回転させる力を利用したんだ。ネジを回転させて飛ばせば、当たったらネジが体に締まるぞ。あれを喰らったら絶対に重傷だ!」
ぼうっと突っ立っていることもできない。ネジが飛んでくる。かと言って近づけば回転させられる。
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