第五話 計算ミス
高校で何が起こっているのか二人は何もわからない。ただ大学の敷地内をひたすら歩く。
「広すぎませンカ…」
「国立大学だからな。うちの高校とは月とスッポンだ。これは予想以上に大変だぞ。今日中に終わるかどうかも怪しい…。イワン、お前の家は門限に厳しいんだろう? 大丈夫か?」
「ここは近所ですから帰ろうと思えばすぐに帰れまスヨ。陶児サンの方こそ大丈夫でスカ?」
「ああ。心配することは無い」
さらに敷地内を奥に進む。今日は人が少ない。何故だかわからないがその方がかえって怪しまれない。
「どの学部から見てみる?」
正直どれからでもいい。
「では一番下の、農学部からいきまスカ」
農学部の建物に入って行く。最初に入った建物には全階を確認したが掲示板の類はなかった。だが三階にレポート返却ボックスがあった。
「まさか、覗くんでスカ?」
陶児はイワンの方を向いて言う。
「当たり前だ。ここに手がかりがあるかもしれん」
「でも、苗字しかわかってないんでスヨ?」
一呼吸おいて陶児は返答する。
「それは違う。陽一の話が正しければ、雪子の運動会が雨で中止になったのは今年で三年目。ということは雨宮はこちらに来て三年目ということだ。多分一人暮らしだろう。もし近辺に元々住んでいるのなら運動会は雨宮が生きている間はずっと中止になっているはずだ」
「もし[ペテントス]を手に入れたのがここ最近なら、その推測はハズレでスヨ?」
「そんな最近手に入れた式神を切り札と言うか? [ペテントス]が雨宮の切り札と言うことは、相当の信頼を置いているということだ。つまり雨宮の式神の中で一番古いと予想できる」
「なるホド…」
「そしてこちらに来て三年目。進級すれば今は大学三年。馬鹿ではなさそうだから留年もしてない可能性の方が高い。そうなると」
返却ボックスの三年生の分を確認すればいい。
「結構ありまスネ…」
「国立だから仕方ない。一つずつ探していくぞ」
返却されているレポートを一つずつ確認するが、雨宮の文字はない。次の棚も見たがなかった。念のため二年生の分も確認したが結果は同じだった。
「この学科ではないんじゃないでスカ?」
「あり得るな。やはり掲示板を探しに行こう」
一度建物を出た。そして違う建物に向かった。今度は当たりだ。一階に掲示板がある。
「ここに張り出されていレバ…」
イワンが見ている掲示板に貼られているのはコンクールの告知だの未成年の飲酒防止だので全然違う。
「あったぞイワン!」
陶児が叫んだ。その方に向かう。
「学籍番号三番、雨宮好恵。コイツだ。実験の班分けの表に名前がある」
「オオ! これで目的達成でスネ!」
「慌てるなイワン。農学部の雨宮はコイツだけのようだが、他の学科や学部にも同じ苗字の奴がいるかもしれない」
「エ? じゃあまだ帰れないんでスカ?」
陶児は頷く。
「まあいいじゃないか。家は近くなんだろう? 今みたいにすぐに見つかる可能性だって十分にある。次の学部に行こう」
「…わかりまシタ」
隣の人文社会科学部の方へ移動する。
道中で一人の男とすれ違う。
「おい待てよ」
男はそう言う。イワンと陶児は振り返る。
「俺たちに言ったのか?」
男はイワンを指さし、
「正確にはお前だよ、イワン・セルゲイ・チェルヌイフ! お前に用があるのさ」
「知ってる奴か、イワン? お前のミドルネームまで把握しているようだが…」
「イイエ。初めて見マス。日本人の顔ってみんな同じっぽく見えまスガ、さすがに知り合いトカ、一度あった人とかの区別はつきマス」
「じゃあ誰だ?」
「それは俺が言いたいね。お前こそ誰だ? 陽一って言う奴と容姿がまるで違う。お前みたいな奴がいるとは聞いてないぞ」
男のこの台詞…。間違いない。コイツは雨宮好恵の仲間だ!
「おいおい。ってことはよ、やっぱりイワンの奴らにも他に仲間がいるってわけね。まあじゃないとあの状況から生きて帰れるはずないし。そして始末すればさらに褒められるってわけだな! これは美味い話だぜ!」
陶児はしまったと思った。日本人同士なら顔がすぐにわかると思ったから陽一を高校に置いてきたが、相手はロシア人でより目立って調べやすいイワンの方を調べていたのだ。
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