第四話 敵ではなかった!

「どう? やったの[レヴィアシス]?」

 隠れていた久姫が出てきた。

「いいえ。にげました。これからどうします? おいますか?」

「あれは式神なの?」

「そうです。しきがみでないとあんなことできません。ぜったいそうです」

「じゃあ追わないと。絶対に悪さするよ。そのためにこの学校に入って来たのよ!」

 久姫と[レヴィアシス]が歩み出す。

「とつぜんでてくるかもしれません。わたくしのうしろにいてください」

「わかったわ。でも、勝てるのよね?」

「はい。あのしきがみのこうげきはわたくしにはもうつうじません。あんしんしてください、くきさま」

[レヴィアシス]が言うならそうだ。[レヴィアシス]がはどんなものでも防ぐバリアを作ってくれる。今まであまり使う機会はなかったけれど今日は役に立つ。謎の式神を必ず止めてみせる!

 廊下を恐る恐る進む。

「いません。なかなかすばやいです。でもあのでかさです。みをかくせるはずがありません。かならずいどうしています」

[レヴィアシス]が廊下の床に指をさす。そこは濡れている。

「あのしきがみはみずをあやつります。このみずをたどればいいかもしれません。いきましょう」

「そうね。なら気を付けて行こう」

 式神がこの学校を狙う理由はわからないが、放っておくのは危険だ。破壊しなければいけないかもしれない。自分にそれができるだろうか…。


「はあ、はあ」

 後ろを振り返る。振り切れたか? 視界にはいないようだ。

「さ、三組…」

 着いた。俺の方が早かった。教室の空いているドアの隙間から入る。そして陽一のところまで行く。

「…」

 補講中にしゃべるわけにはいかない。だが、[ヤマチオロ]から焦りを感じる。何かから逃げてきたのか? なら何かがいた?

「よ、陽一!」

 何か言いたそうだ。陽一は机の上を指で突いた。ここに頭を持ってこいと指示した。[ヤマチオロ]が頭を持ってくるのを確認するとプリントに書き込む。

「何があった?」

「敵の式神が校内にいる…!」

「何?」

 声に出してしまった。

「どうした辻本君? 今の文でわからないところでもあったかな?」

 先生に指名された。真面目に補講を受けてないから文の意味なんて知るか、とは口が裂けても言えないので適当に誤魔化す。

「何でもないです」

 そう言うと先生は補講を再開する。

「どんな奴だ?」

 筆談する。それを見て[ヤマチオロ]は声に出して答える。

「人魚だった」

「召喚士は? 男? 女?」

「式神しか見てない。召喚士まではわからない」

 なら雨宮が差し向けた式神か。雨宮があれ以上式神を持っていても不思議じゃない。土曜日に見せなかっただけで、所持している式神の数が多い可能性は十分ある。

「攻撃はした?」

「した。だけど、見えない壁があって通じないんだ」

 それが相手の式神の力…。バリアでも張るのかもしれない。

 こうしてはいられない。すぐに排除しに行かなければ!

「先生!」

 手を挙げて発言した。

「ちょっとお腹が痛いのでトイレ行ってきます」

 先生の返事を待たずに陽一は教室から出た。

 廊下で[ヤマチオロ]に話しかける。

「どの辺で出会った?」

「三階だ。まだあそこにいるかどうかわからねえけど、さっきはそこにいた」

 三階にあるのは三年生の教室と図書室と自習室ぐらいだ。校内に入って来れるような抜け穴はない。となると俺が登校する前に既に来ていた可能性が高い。

「だが…」

 今攻撃し始めるのはおかしい。陶児先輩とイワンがいない時間帯を狙ったのかもしれないが二人は二時半には下校した。そして[ヤマチオロ]は今日はずっと校内をうろついていた。三時間も待つ意味がない。何故今になって攻撃してきた?

「とりあえずまず三階に行こう」

 歩き出すと[ヤマチオロ]が向こう側を見ていることに気が付いた。

「何かいるの…」

 人魚だ。[ヤマチオロ]の言う通り式神がいる。曲がり角から身を乗り出して様子をうかがっている。

 陽一は人魚に背を向けた。

「[ヤマチオロ]…。あの式神の後ろに回り込むのは可能か? バリアを張るのなら、その後ろから叩かないと意味がない」

「できるぜ。相手の攻撃は素手だけだ」

「よし。今あの人魚にはお前が見えてる。できればあの曲がり角にいさせたい。その方が攻撃を防がれないからな。睨み続けろ。少しでも動いたら攻撃するんだ。いいな?」

「わかったぜ。じゃあ行くぞ」

[ヤマチオロ]がゆっくり近づき始めたので人魚の方も気付いたようだ。曲がり角で止まる。人魚は[ヤマチオロ]だけを見ていて自分の動きには気付いていない。

 数メートル手前で[ヤマチオロ]が止まる。周りの水を集め始める。人魚はそれを警戒しており、[ヤマチオロ]しか見えてない。いける!

 曲がり角を曲がって後ろに回り込めた。[クガツチ]を召喚して一気に決めてやる!

「あ、陽一君…」

「え、八幡さん?」

 急に話しかけられたので陽一の動きは止まる。何でこんな時に話しかけてくるんだよ!

 どうせ見えやしないんだ。今攻撃しないと[ヤマチオロ]がやられてしまうかもしれない。[クガツチ]の札を出した。

 すると驚いたことに久姫が陽一の腕を掴んだ。

「陽一君、それはもしかして…」

 自分のこの動きに反応する、ということは…。

「それは、式神の札?」

 信じられない。まさか文字が見えるのか!

「まさか、敵は八幡さんだったのか!」

 そう考えれば納得がいく。[ミルエル]が侵入者に気付けないわけだ。相手は自分と同じこの高校の正式な生徒なのだから。

「ちょっと、敵って何?」

 陽一は久姫の襟元に掴みかかった。

「わ! 何?」

「とぼけるなよ。お前が雨宮の仲間だったってことは驚いたが…。ちょうどいい。雨宮について聞きたいことがある」

 久姫は陽一の腕を掴む。

「待ってって! 雨宮って誰? 私そんな人知らないってば!」

「だからとぼけるな! 敵とわかった以上俺は容赦しない」

「だから待って。本当に知らないんだってば! 私はただあの蛇を駆除しようとしただけなの! 悪さする式神だったら困るから…」

 久姫の表情は真面目だ。嘘を吐いているようには見えない。

「…本当に知らないのか?」

「本当よ。あの蛇は陽一の式神なの?」

「そうだが…」

 本当に敵じゃないのか? 教えて大丈夫だろうか? 証明してもらいたいがする術はないだろう。

「じゃあまず人魚の式神を止めろ。俺も[ヤマチオロ]を止める」

「わかったわ。だから腕を放して」

 腕を放した。このタイミングで攻撃してくるかと思ったがしてこなかった。本当に雨宮の仲間ではないのかもしれない。

 久姫が[レヴィアシス]を札に戻したので陽一も[ヤマチオロ]を戻した。だがまだ警戒する。いつでも召喚できるように札を握っておく。

「びっくりしたわ。まさか陽一君が召喚士だったなんて…」

「別に隠すつもりはないけれど、言っても誰も信じないだろうし」

「だからクラスの人とあまり話さなかったわけね。じゃあ、あのイワンって人も召喚士なの?」

 イワンのことを知らない。ということは雨宮と接点がない。もし本当に仲間なら教えられているはずだ。

「雨宮って誰のことなの? その人も召喚士?」

 ここは信じるとしよう。

「ああ、そうだ。俺たちのクラスメイトが三人行方不明だろう? 雨宮が殺したんだ。あいつは危険なクソ女だ。野放しにはできない。今探してるところなんだ」

「じゃあ私も手伝うわ」

 人が増えると危険だ。巻き込みたくないが…。雨宮は久姫のことは知らない。なら味方につけておけば欺けるかもしれない。

「…危険だけどいいかい? じゃあ説明しよう。その前に」

 陽一はポケットから札を取り出し、久姫に差し出した。

「これを久姫、君にやろう。その式神、相手が二人じゃ不利だろう。これは[アズメノメ]って言うんだ」

 受け取った久姫はすぐ召喚してみせた。

「猫、だけど」

「その通りただの猫に見えるだけさ。でもちゃんとした式神なんだぜ。その力も含めて全部説明しよう」

 陽一はイワンや陶児先輩が召喚士であること、雨宮について知っていることを全て久姫に話した。

 その後、陽一のスマートフォンが鳴った。どうやらイワンからメールが来たようだ。内容は何だろうか?

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