第三話 学校の中に式神?
昼休みになるといつもの屋上だ。
「どうっすか先輩? 何かわかりましたか?」
「高校生の捜査力じゃ限界があるな。雨宮という苗字で岩大生。それがわかっていても実際に大学に問い合わせるわけにもいかない。個人情報だ、教えてくれるはずがない」
やはり駄目か…。こちらから探すのは無理がある。
「先輩も警戒はして下さいよ」
「俺は顔は割れてないと思うが…」
イワンが会話に割って入る。
「あのウ。実際に大学に行ってみてはどうでしョウ? 人事部は名前は教えてくれなくテモ、掲示板とかに張り出されてるかもしれないじゃないでスカ。フルネームがわかれば探しやすくなりまスシ」
あえて敵地に乗り込むのか…。
「少し危険だが、やってみよう。じゃあ放課後、校門前に集合だ」
「あ、先輩。俺今日の補講に出るんで。今日はイワンと一緒に行って下さいよ」
「…わかった」
「陽一クン、行かないんですか?」
「いや陽一、お前は来なくていい。寧ろ学校で待っていろ。雨宮が単独じゃなければ、他の召喚士がこの学校に来るかもしれない。それに備えておかなければ。暴れまくって死傷者を出すわけにはいかない」
陽一は頷く。
「了解っすよ。最初からそのつもりっす」
昼休みはこれで解散となった。
暇だ。そんなこと言っている場合じゃないのはわかる。だがそれ以外に何て表現したらいいかわからない。
「この語の意味は…」
第一勉強なら自分でできる。補講など出る意味がないのだ。しかも先生の話も面白くない。やる気が全くでない。やっぱり岩大に行けば良かったかもしれない。留守番はイワンに任せて…。顔を覚えやすいのは同じ日本人のはずだから自分がいることにはすぐに気付く。そうすれば雨宮は必ず向かってくる。
時計を見た。五時半か。もうどのくらい操作が進んでいるだろうか?
「なあ陽一」
下を見ると[ヤマチオロ]が戻っていた。
「もう何十周もしたぜ? もういいだろう?」
小声で、
「念のため、俺が帰るまで。頼む」
と言う。[ヤマチオロ]も仕方なく頷いて廊下に行く。
自習室で勉強しているとお腹がすいてくる。時計を確認するともう五時半。購買部でパンでも買ってこよう。そう思って自習室を出た。
「え…」
思わず声が出る。目の前に、蛇がいる。
「えええ…どういうこと?」
理解不能な状況だ。
蛇は廊下で話をしている生徒の方を見た。だが生徒の方は蛇の存在に気付いていない。と言うより蛇を認識していない。蛇が近づいても何も言わない。蛇の方も噛みつこうとしたりしない。
「あれは蛇じゃないの? どういうこと?」
考えられる可能性は一つ。それを確かめる。
「お願い、[レヴィアシス]!」
久姫は式神を召喚した。久姫自身は物陰に隠れて様子を見守る。[レヴィアシス]なら大丈夫だと思うけど少し心配だ。
「はあああ!」
[レヴィアシス]の拳が蛇に下された!
「ぐああ?」
何だ今の? いきなり殴られたぞ?
[ヤマチオロ]は振り返る。人魚のようなものがそこにいた。
「こ、これは…!」
式神だ。式神以外ありえない。
「まさか、ここの場所がもうバレたのか? すぐに知らせなくては!」
でもコイツ…。どうやって校内に入ったんだ? 外は[ミルエル]が巡回しているはずなのに。[ミルエル]が見逃したのか? それとも実は既に侵入しており、攻撃のチャンスをうかがっていた?
[ヤマチオロ]は人魚の式神の方を向いてとぐろを巻いた。陽一に言われたんだ、徹底的に攻撃しろと。お墨付きをもらっているので躊躇しない。
周りには水がない。だから空気中のわずかな水蒸気を集めなければいけない。少し時間がかかるが、威嚇でやり過ごす。
「シャー!」
舌を出したり口を開けたりした。毒はないが牙も見せた。相手の式神は…何も仕掛けてこない。
「…よし!」
もう十分だ。これぐらい水が集まれば一瞬だけだがウォーターカッター並みの威力で水を噴射できる。喰らえ!
[ヤマチオロ]が攻撃のモーションに入る。すると相手の式神は初めて動き出した。手のひらをこちらに向けている。そんなもので受けきれると思っているのだろうか? 甘い。
勢いよく水を噴射した。そしてその水は式神を切断するはずだった。
「な、何?」
水が相手に届いていない。何かで防がれている。その何かに弾かれて水が拡散する。
「くそ…」
ならば直接噛みついてみるか…。それが通じればの話なのだが…。
[ヤマチオロ]は相手の式神に向かって飛んだ。
ビタン、という音がした。壁にぶつかった時にする音だ。だが[ヤマチオロ]の前に壁はない。
「こ、これは…」
この式神と自分の間に、目に見えない壁がある。その壁のせいでこれ以上前に進めない。
一旦地上に降りて距離を取る。そして近くに水道が無いか確認する。後ろにあった。それに飛びつく。蛇口を回して水を出す。
「水で駄目なら氷だ!」
出てきた水を片っ端から氷に変えて相手に放つ。
だがそれも無駄だった。いくら氷をぶつけようとしても、見えない壁に遮られる。
「…ヤバい」
自分だけじゃ対処できない。こうなったら陽一のところに行き、報告してどうにかするしかない。確か一年三組の教室だ。
[ヤマチオロ]は反転し、逃げ出した。
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