第七話 決着がついた

「どうやっても突破なんてできねえよお! 俺の黄金パターンにお前たちはハマったんだ。諦めな! そうすれば苦しまずに殺してやるぜ」

「イワン。あんなのは無視だ。それより少し右に行け。建物の日陰に入れ。[ステケラン]の話を聞くに、日陰なら動きが鈍くなるはずだ」

「了解デス。でも、勝ち目はあるんでしょウカ?」

 風間の方を見た。そして少し考える。

「早くしろよ! 俺は忙しいんだぞ? 雨宮先輩に色々と報告しないといけねえしよ。第一お前ら何てその気になれば一瞬で殺せんだぞ?」

 風間はそんなことを言う。

「ああやって、余裕を見せてはいるが数で不利なのはわかっているはずだ。そして勝負を早めたいのは日没が来ると[ステケラン]が役に立たなくなってさらに不利になるからだ。今年の夏至はまだ迎えてないから日没まで時間はまだあるが、気にしているに違いない」

「それなら時間が来るのを待つというノハ…?」

 また[パイラスル]がネジを投げようとしている。

「駄目だ! 日没まで待てない。待たせてくれない。またネジが飛んでくるぞ!」

 しかし以外にもネジはイワンたちの方には飛んでこなかった。

「コントロールが外レタ?」

 いや違う。あの式神はそんなに不器用じゃない。最初のネジだって自分がイワンのことを押してなければどちらかに確実に当たっていた。

「あ、あれを見ろ!」

 ネジの向かう先に既に[ステケラン]が回り込んでいる。凄いスピードだ。全く気が付かなかった。

「これが狙いだったんだ!」

[ステケラン]がしっぽを振り、棘でネジを弾く。ネジは方向をこちらに変える。

「[ノスヲサ]! く、間に合わない!」

 このままではイワンに命中してしまう!

[ヨルガンド]が一匹飛んだ。その一匹の頭にネジは命中した。頭部が破壊された[ヨルガンド]はそこから亀裂が生じて砕け散った。

「こんな使い方だけはしたくありませンガ、今はこれしかありまセン…」

[ヨルガンド]は一匹でも残っていれば、日をまたげば他は復活する。

「もう限界ですよ陶児サン。次の攻撃は防げないかもデス」

 イワンの耳元で風間に聞かれないように囁く。

「いや。良い作戦がある。しかしそれは[ヨルガンド]を一匹犠牲にしてしまう。お前がそれを許すかどうか…」

「今は仕方ありまセン。それに賭けマス!」

「わかった。いいか…」

 イワンに説明する。

「エエ! それは失敗したら…」

「どのみちこのままじゃ負ける。今はそれしかない!」

 風間は次のネジを用意したが、もう投げる必要はないみたいだ。向こうから向かってくる。

「返り討ちにしてやるぜ! いけ[パイラスル]! [ステケラン]!」

 風間の式神がやはりこちらに向かってくる。予想通りだ。

「今だイワン!」

「やれ! [エンリル]!」

[エンリル]が光を放つ。さっきよりも強い光を。

「馬鹿め! そんな手が通じるとでも思ったかあ? [ステケラン]! やってしまえ!」

[ステケラン]が物凄いスピードで動く。目で追えないほどだ。だが予想はできる。

「馬鹿はお前だ!」

[ノスヲサ]が短刀を振り下ろした。タイミングはバッチリだった。

「な、何…?」

 風間は、[ステケラン]が足を切られているのがわかった。右の前と後ろ脚が根本から切り飛ばされている。そして足を失った[ステケラン]は立ち上がることができない。

「今の光…光らせれば絶対にこっちに向かってくると思った。そしてそのスピード。あんな速さじゃかわせないし、当たるだけで簡単に切れる。目くらましのために光らせたんじゃない。[ステケラン]にハイスピードで動いてもらうためさ」

「何だと? く、しまった!」

 動けない[ステケラン]に[ヨルガンド]が一匹噛みつく。喉を噛み砕いた。すると[ステケラン]は砕け散った。

「次は[パイラスル]だな」

「この野郎…俺に本気で勝つ気か? [パイラスル]の力を知ってて来る気か!」

 風間は[ステケラン]が破壊されたから焦っている。

「そんなザマではせっかくの情報と経験が泣いてまスヨ? そしてこれがワタシの最後の攻撃…行け[ヨルガンド]!」

[ヨルガンド]が一匹風間に向かって突進する。当然風間は[パイラスル]でガードする。

「この式神は回転させまくってねじ切ってやる! お前らも同じ目に遭わせてやるからな!」

[パイラスル]が[ヨルガンド]を掴んで持ち上げる。そして[ヨルガンド]の関節という関節を回転させた。当然[ヨルガンド]は全身がねじ切れてしまう。そして[ヨルガンド]の体は破裂した。

「やっぱり馬鹿はお前らだなあ! 無駄に式神を消費しただけだ! 暴れろ[パイラスル]!」

 風間が叫んだ。だが[パイラスル]は動かない。倒れ込む。

「おい、どうしたんだ! [パイラスル]?」

「無駄な消費? 違うな…勝利への必要経費だ」

「雨宮から聞かなかったんでスカ? いや聞けませんヨネ。[ヘールル]の毒が式神にも有効だなんてこトハ。あの時はそういう使い方はしませんでしたからその情報は絶対に手に入りまセン」

「な、な、何が言いたい? 何をした?」

「今の[ヨルガンド]は言わば爆弾…。[ヘールル]の毒をたっぷり含んでいまシタ。それが破裂したんデス、毒を浴びるに決まってマス。あの量を浴びればもう動けるわけがありまセン」

[ノスヲサ]が[パイラスル]に近づく。

「[ノスヲサ]…一撃で仕留めろ。でないとまた刀を回転させられてしまう。武器をこれ以上失うわけにはいかない」

「動け! 動け[パイラスル]!」

 風間の叫びもむなしく[パイラスル]は少しも動かない。いや動けない。

[パイラスル]の首に[ノスヲサ]の刀が振り下ろされた。この一撃で[パイラスル]の首は切り飛ばされた。そして粉々に砕け散る。

「ば、馬鹿なあ! そんな馬鹿な!」

 男が握っていた式神の札は二枚ともボロボロになり、朽ち果てた。これは式神が完全に破壊されたことを意味している。

「ふ…情報と経験があっても意味がなかったな、お前には」

「く、くそ…」

 式神を失った召喚士にできることはない。もう風間は戦闘不能である。

「風間…俊樹、って言ったな。雨宮について聞きたいことがある。正直に言えば助けてやるよ。式神がなくなってしまったお前はもはや足手まとい。雨宮に役立たずと言われて殺される可能性があるぞ? さあどうする?」

「俺が、俺が…」

 風間は一度息を溜めた。

「俺が雨宮先輩を裏切ると思ってるのか! そんなことをするぐらいなら自ら死を選ぶぞ!」

 叫ぶと同時にポケットの中の残りのネジをイワンと陶児に向かってばら撒いた。

「ウワ!」

 びっくりしたが所詮はただのネジ。当たってもあまり痛くはない。

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