第一話 少しビビっている

「おはよう」

 朝、一階のリビングで家族と朝食をとりながらテレビを観る。

「週末、岩山パークランドで死亡事故がありました。死亡したのは岩手大学農学部の教授である増尾高俊教授で、絶叫マシンに乗っている際に原因不明の心臓麻痺を起こし…」

 土曜のイワンとの殴り合いはニュースにもなっていないようだ。新聞も確認したが何も書かれてなかった。

「お兄ちゃん、そんな険しい顔してどうしたの?」

「何でもないよ、雪子」

 ニュースで報道されていないということは雨宮も自分が生きていることを知っているということだ。

「秋の運動会は絶対に開催させてやるからな。楽しみにしてなよ」

 歯を磨き髪を整えると一度自分の部屋に戻った。

「陽一、これはヤバいんじゃねえのか?」

「そうだな[ヤマチオロ]…。あの雨宮は野放しにしておくのはかなり危険だ。しかも俺はあの女の正体を知っている。雨宮が俺を放っておくと思うか?」

「いいや思わないぜ。俺だったら早めに始末するな」

「だろうな。だがあちらからすれば俺についての情報は名前ぐらいしかない。住んでる場所がわかるなら昨日襲ってきたはずだ。芝水園についても知らなかったってことは土地勘がないのかな?」

 陽一は部屋にいる、ペット同然の状態の[アズメノメ]に札をかざし、札に戻した。

「今雨宮が知らない俺の式神はこの[アズメノメ]だけだ…。護身用に持っておかないとな」

 ついでに[ミルエル]を召喚した。

「[ミルエル]。今日は俺の近くを飛び回ってくれ。あの雨宮が式神で襲いかかってくるかもしれないからな。[ヤマチオロ]は俺の側にいろ」

「わかった」

 家を出る。怪しい人影はない。


 登校中陽一は終始辺りを気にした。道行く人を見ては雨宮でないと確認し、ホッとする。そしてまたすれ違うと警戒する。その繰り返しだ。

「なあ陽一。あの女にお前の素性がバレてないと思うか?」

「いきなりどうした[ヤマチオロ]?」

「あの三人組、雨宮がどっかに消しちまったんだろう? あいつらと同じ制服だと学校がわかっちまうよ」

 それを忘れていた。

「それは…まずいな。非常に。学校に既に式神が送り込まれているかもしれない。警戒を強めろ、[ヤマチオロ]」

 あの時三人組と同じクラスであることを言った。徹底的に調べる人物ならもうたどり着いているかもしれない。


 学校には安全に着けた。

「今日一日、[ヤマチオロ]は校内を循環してくれ。怪しい式神がいたら攻撃して破壊して構わない。雨宮本人であっても、だ。[ミルエル]はそうだな…学校周辺を飛び回れ。高校生や先生以外で校内に入るがいたらすぐに知らせてくれ」

[ヤマチオロ]と[ミルエル]に命令した。自分の懐には[クガツチ]と[アズメノメ]がいる。万が一[ヤマチオロ]たちの包囲網を突破されても大丈夫…なはず。

 荷物を机に置き、教科書やノートを机の中に入れたら一組に移動した。

「やあ陽一クン」

 イワンも無事のようだ。

「そんなのん気なこと言ってる場合じゃないぞイワン。いつ雨宮の式神が襲ってくるかわからないんだぞ? お前の方はどう警戒している?」

「一応は[ヨルガンド]に周りを見張らせてまスガ…。もっと強めましョウ。[ヘールル]を召喚して今日一日中側にいてもらいマス」

「そうだな。それがいい」

 チャイムが鳴った。二組の教室に戻らなければ。

 まだ担任は来ていないみたいだ。だがまたあの人が陽一の前に立っていた。

「八幡さん…。君も随分しつこいね。仲良い人と話して何が悪い?」

「クラスに馴染みましょうよ。もう二か月も経つのよ? 陽一君だけよ、全く馴染んでないのは!」

「俺は別に困ったこととかないし…」

「もし何かあったら私に相談してよ! 何でも力になるから!」

 八幡は陽一の話をガン無視である。無駄に真面目だと困る。

 やがて先生が教室に入って来た。朝の会が始まる。

「今日は古典の補講があるぞ。出ておきたい奴は放課後三組に集合だ」

 勉強もおろそかにはできないな。仕方ない出ておくか。その間に式神が学校にやってくるかもしれない。罠を張る式神かもしれない。それを撃退しよう。

 今日一日できるだけ長く学校にいることにした。

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