第六話 戦闘勃発
まさかこんなガキに自分が召喚士であることがバレてしまうとは…。
こうなってはもう選択肢は一つしかない。徹底抗戦である。[ルナゲリオ]がいなくてもできる。そういう式神を私は持っている。
「しょうがないわね…。なら見せてあげる。私の切り札を!」
好恵は札を持ち、念じる。そして式神を召喚する。
札からは翅を広げるとニメートルくらいある蛾が出てきた。
「これはね…。[ペテントス]と言って、天気を自由自在に操れる式神。コイツがいれば近所の小学校の運動会は雨を降らせて中止にできて、休日は静かに過ごせる。最も頼れる式神よ」
[ペテントス]は羽ばたく。そして陽一たちを睨みつける。
「キュオオオオオン!」
「コイツが、この女の式神…!」
天気を操るだって? そんな力を持つ式神がいるとでも言うのか? しかも運動会を中止? じゃあ雪子の楽しみを奪ったのはこの女!
「イワン。少し離れろ。挟み撃ちだ。この女、ひょっとしたらあの三人組の失踪にも関わっているかもしれない」
「フフフ…。関わっているもなにも、私がその三人組を殺したのよ。邪魔だったから」
「邪魔だった? そんな理由で殺したって言うのか!」
あの三人組に特別な思い入れとかはない。だが式神を人に迷惑をかけないように使ってきた自分にとってこの女性の行為は許しがたい。
まずは落ち着け。早まるな。女は一人でこっちは二人。人数で言うとこちらが有利である。所持している式神の数は? 自分は四体でイワンは三体。この女はどうだろうか…?
「イワン…。やっぱりこっちに来い」
女が逃げようとしないのでイワンを呼び戻す。そしてイワンの耳元で小声でささやく。
「今日、[ヘールル]は持ってきてるか?」
「もちロン。持ってる式神の札は毎日携帯してまスヨ。召喚しまスカ?」
[ヘールル]には触った人に毒を盛るという力がある。普段は絶対に役に立たない(イワンはズル休みするために少し使ってみたことがあるらしい)力だが、ここで初めて真価を発揮できる。
「やりまスカ? 毒の種類や程度はどうしマス?」
流石に殺すほどの毒はいらないが、動きを封じるくらいは欲しい。
「神経毒にしよう。立てない程度にしてくれ。動けなくなったらとりあえず陶児先輩を呼ぼう」
「わかりまシタ。では、[ヘールル]を召喚しまスヨ!」
イワンがポケットから札を取り出した。そしてそこから魔女のようなものが出現する。これが[ヘールル]。
「サア行くんです[ヘールル]! あの女に動けない程度の毒を盛りなサイ!」
「了解よ。一瞬で終わるわ」
[ヘールル]が女の方へ行く。対する女はあの、[ペテントス]とか言った式神で防御する――いやしない。
[ヘールル]が女に触れた途端に女は跪いた。毒が効いたのだ。
「よし。このまま維持だ。それでいい」
案外上手くいったな。陽一は女に近づいた。まだ名前を聞いていない。身元を確認するために手荷物を取り上げるのだ。先輩を呼ぶのはその後でいい。
一歩一歩近づくと急に女が起き上がった。
「何! イワン! 毒はどうした? 効いてないぞ?」
[ヘールル]の毒の程度は詳しく知らないが式神が召喚されている間は有効なはずだ。それなのに女は平然と立ち上がる。
「そんな式神を持っているとはね。ちょっと欲しいぐらいよ。でも私には通用しない」
この時陽一は女の肩に植物のようなものが生えているのに気が付いた。何だこれは?
「毒っていうのはいいアイデアよ。でも私の式神とは相性が悪い…」
女が植物のつるを手繰り寄せるとバラの花のようなものが現れた。これが式神…?
「私はこの[イグルカン]を手に入れてから風邪を引いたこともないし感染症や伝染病にかかったこともない。何でだと思う?」
[イグルカン]。このバラは式神だ。そしてその力は今の状況と女の台詞から考えると…毒を無力化できるということか。
「イワン! [ヘールル]の毒を強くしろ! 意識不明レベルで構わない。この女の動きさえ止めれば…」
少々暴力的だが仕方ない。この女は絶対危険だ。止めないといけない。
「無駄よ。私の[イグルカン]はどんな毒でも解毒してくれる。その力は一瞬。その式神がどんなに頑張ってもこっちの方が早く力を発揮できる。もうその力は役に立たないわよ」
くっ…。とにかくヤバい。今は距離を取らないと…。
「今度はこっちからいくよ」
女がそう言う。攻撃を仕掛けてくる。
[イグルカン]とかいう式神のつるが伸びた。そして陽一の腕に巻き付いた。
「うわ!」
こんな使い方もできるのかこの式神。早く切り離さないと…。
「くっこのクソ女! [クガツチ]!」
植物なら[クガツチ]の炎で焼き切ってやる。素早く札を取り出して召喚する。
「焼き尽くせ[クガツチ]!」
「ガオオオオ!」
[クガツチ]の腕が燃える。そしてそれでつるに攻撃しようとした。
突然、雨が降り始めた。それも土砂降りである。
「な、何だ?」
「さっき説明しなかった? 私の切り札[ペテントス]は天気を自由自在に変えることができるって。こんなところで火なんて起こさせないわよ。あんたはもう捕まえたんだから」
[クガツチ]の炎が雨で消える。もう攻撃体制を取っていた[クガツチ]にいきなり行動を変更するのは無理だった。[クガツチ]も[イグルカン]のつるに捕らわれてしまった。
「しまった!」
[ペテントス]という蛾の式神がこっちにやってくる。気色悪い顔で陽一のことを見ている。六本ある足で攻撃しようとしている。
頭を掴まれる。そう思ったが[ペテントス]の攻撃は陽一には届かなかった。
「行け[ヨルガンド]!」
イワンが[ヨルガンド]を召喚し、投げて寄こしたのだ。[ヨルガンド]が陽一の代わりに攻撃を受け止めた。
「そのまま噛みツケ!」
[ヨルガンド]は割と大きい式神だ。これに噛みつかれれば[ペテントス]は無事では済まされない。
「でも噛みつけるかしら?」
[ペテントス]は六本ある足を器用に動かして[ヨルガンド]の動きを完全に止めた。
「いかにも高校生が考えそうな作戦。私に通用するとでも思った? この式神はこのまま破壊してやるわ!」
「いいや俺たちの考えはそんなに甘くないぜ。作戦成功だ」
「何?」
女が陽一の方を振り向く。[イグルカン]のつるで縛っていたはずなのに、そのつるが千切れている。そこには今[ペテントス]が捕まえているのと同じ式神がいる。
「[ヨルガンド]に特別な力はありまセン。でも、[ヨルガンド]は一度に四体まで召喚できマス。四体で一体の式神」
「な…。そんな式神が?」
「俺だって最初に知った時は驚いたさ。でも存在してるんだから深く考えないことにしたぜ」
そう言っているうちに三体目が[クガツチ]を締め付けるつるを食いちぎる。これで陽一たちは自由を取り戻した。そしてイワンの方へ素早く逃げる。
「…今回はちょっと厄介ね。面倒な式神を持っているとは…。でも役に立たない魔女、雨で力を発揮できないライオン、三匹のコモドオオトカゲで本気で私に勝てると思ってる?」
女はそんなことを言っているがまだ大丈夫だ。陽一には[ヤマチオロ]と[ミルエル]が残されているし、イワンも[エンリル]が残っている。それを女は知らない。戦力的には十分なはず。
「イワン。この雨じゃ[クガツチ]は力を発揮できない。一度札に戻す。代わりに[ヤマチオロ]を召喚する。お前も[ヘールル]はしまえ。下手に出しっぱなしにして破壊されたら元も子もないぞ」
「わかりまシタ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます