第一話 気になること

「まあ過ぎたことは仕方ないじゃないか。それにイワン、お前は日本に来てまだ二年だろう? 逆にそんな短期間でマスターできる方がおかしいよ」

 いつもの屋上でイワンを慰める。苦労の甲斐なく現代文と古典が赤点だったらしい。

「今日、家に帰りたくありまセン…。陽一クン、泊めてくれませんカネ?」

 イワンの顔は青ざめている。もし自分が同じ立場なら泣いていたかもしれない。そう思うとイワンに悪いが外国人でなくて良かったと思う。あとあんな姉がいなくて良かったと。

「それは駄目だぜ。だって無断外泊はバレたらお前の姉に処刑されちまう」

「ワタシから持ちかけた話ナラ…」

「そう言って姉に通じるとでも思うかい?」

 そう返すとイワンは下を向いて黙り込んだ。

「そう落ち込むな。一度その姉とやらに反発してみたらどうだ?」

 陶児先輩がそう言う。

「エエエ! そ、そんなこととてもできませンヨ! ワタシが家にいられなくなってしまいまスヨ…」

「だが相手は親でなくて姉なんだろう? 上手く両親を味方に付ければ可能かもしれない」

 確かにそうだがイワンがあの姉に反発できるとは思えない。いつも姉の言うことを律儀に守る奴だからな。

「親は姉の味方なんデス…。というか親は仕事が忙しくて面倒はあまり見れないでスシ、だから姉が代わりにワタシの面倒を見てるんでスヨ…」

「複雑なんだな、チェルヌイフ家も」

 陶児先輩のその言葉に陽一が反応する。

「複雑と言うと?」

「陽一。お前のクラスのあの三人組、まだ見つかっていなんだろう? もう二週間過ぎている。いくらなんでも三人とも痕跡一つ残さずに蒸発するだろうか? 独力で調べてみてはいるんだがイワンが最後に見た後、三人を見た者はいない…。これはおかしいぞ」

「どうせ家出っすよ。先輩が調べることじゃないっす。馬鹿に時間を費やすだけ無駄っすよ?」

 陽一は止めるが陶児先輩はやめるつもりはないようで、

「いや怪しい。とにかく何かわかるまで調べてみよう。そうでないと気が済まんからな」

「そうっすか…。ま、成績落とさないようにほどほどにして下さいよ? 今年受験でしょう?」

「まだ五月。焦るには早すぎる」

 自分も二年後受験だが、二年後の今こんなに余裕だろうか…?

「陽一。お前のクラスであの三人について何か発表があったらすぐに知らせてくれ」

「わかりました」

 話が終わると陶児先輩は帰った。

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