第三話 召喚士になった日

 あれはまだ自分が小学生の頃だった。急に祖父さんに、書斎に呼び出されたのだ。

「陽一」

 あの時は威圧感が半端ではなかった。だから自分は終始びくついていた。

「は、はい…」

 祖父さんは一枚の和紙を取り出した。

「お前にはこの札に書かれた文字が見える。そうだな?」

 その和紙には文字が書かれている。でも読めない。

「確かに見えるけど…何て書いてあるかわからない。読めないよ」

「今はまだ読めなくていいんだ。重要なのは見えること」

「見えたら何があるの?」

 恐る恐る聞いてみる。

「これをお前に渡す」

 祖父さんはその和紙を自分に手渡した。

「これは我が大神家に代々伝わる、[クガツチ]という式神なのだ。今この瞬間からお前のものだ」

「待ってよ祖父さん。俺は正確には大神家じゃない。母さんは確かに祖父さんの娘だけど。いとこは苗字が大神だ。そっちに渡した方がいいんじゃないの?」

 陽一の母は祖父さんと血が繋がっている。父さんは違う。父さんと母さんが結婚して、母さんの苗字は辻本になったが祖父さんの家に家族で住んでいる。いわゆる二世帯住宅というやつだ。

「いや駄目だ。いいか陽一。わしはもう長くない。死ぬ前にお前にこれを継承させる。それに若菜よりもお前の方が適任だと思う」

 祖父さんはこの前病院で末期癌と言われたらしい。実際にこの会話の後一年足らずで死んでしまった。

「…わかったよ。この紙をどうすればいいの?」

「紙ではない。これは札だ。これに念じるのだ。この中の式神を、召喚したいと。そうするだけでいい。ここでやってみせろ」

 はっきり言って祖父さんの話についていけない。念じれば何か起きるのか?

 疑問に思っていても何も始まらないので念じてみた。何かよくわからないけど出て来い。

 次の瞬間、和紙から突然何か、が出てきた。

「うわ!」

 それはライオンのような見た目でこちらを向いている。たてがみが燃えているようにも見える。少し部屋が熱くなった気がする。

「よし、良くやった。やはりお前には召喚士の素質がある。この札と[クガツチ]を大切にしろ。先祖代々受け継いできた式神…。お前の番が来たんだ」

「その、式神っていうのは何なの祖父さん?」

「そうだった。それについてまだ教えてなかったな。これから全て説明する。まだ幼いお前には少々難しいかもしれんが、頑張って理解してくれ」

 祖父さんと過ごした日々の記憶は成長するにしたがって薄れていくけれど、この時の会話だけは忘れたことはない。

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