第三話

「これで、今年の分は終わりだ。ふう」

 マリコの殺された九十一年から今年まで、全て調べ終えた。不自然な行方不明者は全員若い女性で、毎年一人ずつ消えている。今年はまだみたいだが。

「しかし、本当に全部調べるなんて、驚きです」

「相手は二十年間も人を殺し続けて、しかもバレていないんだぞ? こうでもしないとたどり着けねえさ」

「で、これからどうするんですか?」

「…」

 まだ決めていない。これ以上自分にできることはほとんどないが、ここで投げ出すのも嫌だ。

「どうすればいいんだ?」

 正直手詰まり感が半端ではない。

「やっぱさあ、警察に行くのが一番なんじゃねえのか? 俺が一人で調べるのも限界があるしよ。無理ゲーだよ」

「…私も、それしかない気がしてきました…」

「なら決まりだな。でも、何をどう、話せばいいんだ?」

 幽霊が見えます、なんて話せば帰らされるだろう。ならば遺体を発見した、というのはどうか。事情聴取されるのだろうか?

「そこん所を考えておかねえとな。今日はもう帰ろう」

 家に帰ると、姉が、

「最近どこ行ってるのよあんた?」

 と聞いてきた。

「図書館で勉強だよ」

 そう言うと姉は翔気を睨みながら、

「あんたが図書館? 勉強? 本気で言ってんの?」

 と言ってきた。

「何だよ。何か文句でもあんのかよ? しねえよりマシだろ?」

 過去の事件について調べてる、とは言えない。姉を巻き込みたくないのではない。馬鹿にされるだけだからだ。

 翔気は自分の部屋に入った。

「…怪しい」

 私が恋愛禁止にされているのをよそに、自分だけ楽しんでいたりするのか。姉はそう考えていた。


 朝になって姉は翔気の部屋のドアに耳を当てた。

「今日はどうする? 一応図書館に行くか?」

「…そうだな。まずそれを考えないとな」

 一人でブツブツ何を言っているのだろう? それとも電話してる? いや携帯からノイズとかは聞こえない。翔気は、一人でしゃべっている。というより、誰かと会話をしているようだ。

 ここ最近、翔気の様子がおかしい。急に勉強するようになったのも変だが、一人でいるはずなのに誰かとしゃべっているように独り言を言う。

「警察はどんなこと聞いてくるかな?」

「…でも、そう言って信じてもらえんのかな? 広島県警に特命係なんていないんだぜ?」

 警察…?

 もう我慢ができない。姉は翔気の部屋のドアを開けた。

「翔気! 一体何を言っているの!」

「うわっビックリした! 姉貴、ノックぐらいしてくれよ!」

 姉は翔気が携帯を持っていないことを確認すると、

「今あんた、誰かとしゃべってなかった? 携帯を使わないで!」

 翔気は焦って、

「いや、何も。特に大したことはしてねえよ?」

 今のは嘘だ。顔を見ればわかる。

「さっき警察がどうのって、言ってたでしょ!」

 翔気は黙りこんだが、少し右を見た後、

「何のことだよ? 証拠でもあんのか?」

「…」

 確かにこの耳で聞いたが、証拠と言われても何もない…。

「とにかくよ、俺の部屋に勝手に入ってくんなよな? 今度来たら罰金もらうぞ?」

 姉は翔気の話は聞かずに部屋に入り、少し物色した。

「変なものは何もないわね」

「だって何もしてねえもんよ」

 それを確かめるのはこれからよ。姉は親に、安全のために防犯用の携帯を一台、持たされている。これがあると自分の場所がすぐにわかる。今それを、翔気には見えない角度で持ってきている。これを、翔気のカバンに入れる。

 これで良し。翔気は馬鹿だし、この携帯にすぐには気付かないだろう。

「…まあいいわ。いずれ何か掴んでやる」

 そう言って姉は部屋を出た。

「…姉は行ったな。マリコ、続けよう」


「行ってきます」

 この日も図書館に行くと言って家を出た。でも行先は、警察署だ。今すごく緊張している。自転車の鍵を持つ手が震えているのがわかるし、心臓もバクンバクンと音を立てる。

 図書館よりは近いので、すぐに着いた。これから入る…。


 翔気が図書館に行くと言っていた。姉はパソコンを開き、翔気のカバンに忍ばせた携帯が、今どこにあるのかを調べた。

「ここは…警察署?」

 間違いない。翔気は今、警察署にいる。

 でも、何で…。翔気は不良でもないし、馬鹿だが悪いことをしないことはわかっている。それなのに、どうして…?

 翔気の部屋に入る。机の上のノートパソコンの電源を入れた。パスワードの入力を求められたが、翔気の誕生日を入れたらすんなりとログインできた。

「何か、調べてるのかしら?」

 検索履歴を見てみる。

「これは…」

 そこには、未解決の行方不明事件ばかり検索した痕跡があった。知らない名前がいくつも出てくるし、この前ニュースになっていた、尾形麻理子の事件も複数回検索してある。

「何をしているの…」

 探偵の真似事? でもそんなことする奴じゃない。

「これは、今日、問い詰める必要があるみたいね」

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