第四章

第一話

 悪行は必ず発覚する。自分のカンニングも熊谷にバレたように。隠し通すことなどできない。現に自分はマリコの体を発見した。これで顔も名前も知らない犯人の悪行が世間に知れ渡った。今、犯人は焦っているはずである。

 朝、起きるとすぐ着替えて、カバンを持って図書館に行く。夏休みの習慣と化している。午前中は勉強をする。午後は古新聞のコーナーで、マリコの事件と似たような事件が起きていないか、行方不明者がいないかを探す。

「暑いなあ。もっとクーラーつけてもいいのにケチんなよ」

 気付けばもう八月になっていた。一日、一日と時間が過ぎていく中、翔気は焦りを感じていた。

 調べ始めてから、不審な行方不明者は一年につき一人、二人程度見つかるのだ。最初のうちは見つかると、さっさと事件を解決できると思っていたが、事件は県全体で起きている。多く事件が見つかれば見つかるほど、複雑になっていく。もはや自分の手に負えるものではないのかもしれない。

「警察の方は、捜査はどこまで進んでいるんでしょうか?」

 翔気はマリコの親近者ではない。だから、捜査状況を知る術がない。テレビや新聞も、マリコの事件をもう報道していない。

「逮捕されたって言う話は聞かねえな。だから捜査も進んでないんじゃねえの?」

 事件が起きたのは二十年も前の話なのだ。そう簡単に進むわけがない。

「お。この事件も怪しそうだな」

 古新聞の記事に目をやる。五年前の記事である。当時二十歳の女性が行方不明。

「どこが怪しいんですか?」

「この女性、実家が岡山県らしい。広島の大学に進学したんだろうな。年齢からするに、大学二年生ぐらいか? 一人暮らしの女性がいきなり消えるなんて不自然だろう」

 事件は福山市で起きたらしい。家族が捜索願を出し、そしてまだ解決していない。

「でも、本当にこんなに事件が起きてるんですかねえ」

 これでマリコの事件を合わせるともう十五件目だ。

「随分と猟奇的な犯人だな…。毎年一人殺すことでもノルマにしてんのか?」

 犯人についての情報はまだ全く掴めてないが、はっきり言ってコイツは異常だ。それだけは間違っていない。

「一体全体どういう教育を受けたらこういうことするようになるんだか…。考えられねえぜ」

 携帯が鳴った。母から、早く帰ってこいとメールが来た。

「今日のところは切り上げるか。また明日だな」

 帰り道で、また警察署の前を通る。

「これだけ事件が起きてんだ。このことを警察に報告してみるのはどうだ? マリコの件もあるんだし、少しは動いてくれるかな?」

 マリコに相談する。

「警察はやめておきましょうよ。前にも怪しまれたでしょう? 真面目に取り扱ってくれないかもしれませんよ?」

「そうだよな。ここまで来たんだし、自分の力で探すぜ」

 そう言って警察署の前を通り過ぎた。

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