第六話

 夕食を家族と食べながらリビングでテレビを観る。ニュースの時間である。

「発見された遺体は尾形麻理子さん当時二十四歳会社員で、行方不明で二十年前に捜索願が出されていました。体には背中に刺し傷が三か所あり、警察は殺人事件と断定し調査をしています。次のニュースは…」

 アナウンサーはマリコのニュースを、さっさと読み終えて片付けてしまった。あのアナウンサーにはどうでもよくても、自分にとっては重大な事件なのに。

「ごちそうさま」

 夕食を食べ終わると翔気は夕刊を持って自分の部屋に行った。

「これで、遺体は見つかったわけだ」

「そうですね」

 翔気は夕刊を広げる。さっきテレビで言っていた以上のことは書かれていない。世間からすればよくある、小さな事件なのだろう。

「あとは、犯人だけですね」

「そうだな…」

 匿名通報はあの時にしては良く考えて行動したつもりだったが、後のことを考えてなかった。自分は事件の情報をテレビや新聞から得るしかないのだ。犯人を捜すには圧倒的に情報不足である。

「そうだな…。でも何をすれば…」

「事件は発覚したんですし、犯人の方から動きがあるかもしれませんよ?」

 一理ある。でも、その動きを把握する手段がない。

「通報したのを警察に名乗り出るか?」

「それをしても、警察は何も教えてくれないと思いますよ?」

「でもニュースに発見者として俺の名前が出れば…」

「それもあり得ませんよ。発見者なんて公表しないでしょうし、それに翔気君が犯人に狙われる可能性がありますよ」

「でもそれで罠にはめて…」

「自分を大事にして下さい! 翔気君の身に何かあったら困ります!」

 わかってる。でも情報が欲しい。情報がなければ何もできない。

「でもこの先どうやって、犯人を捜せばいいんだ?」

「それは……」

 マリコも言葉に詰まる。

「ひょっとしてこれは、完全に手詰まりなんじゃねえのか?」

 言いたくなかったが、言うしかなかった。そして言ったところで、何も状況は変わらなかった。高校生の自分にできることは、もうないのだ。

「そう…みたいですね」

 マリコも認める。

「でも、翔気君は頑張ってくれましたよ! 私の体、見つけてくれましたし。警察の捜査力なら、犯人が捕まるのも時間の問題ですよ!」

 マリコは続ける。

「ここまでくれば、私はもう…」

「成仏していい、って言うのか?」

「えっ」

「そんなの、スッキリしねえ。それにお前、最初に会った時に言ったじゃねえか! 自分が殺されなければいけなかった理由が知りたいって。まだそれが明らかになってねえ」

「で、でも、これ以上私たちにできることは何も」

「だからって、勝手に成仏すんじゃねえ!」

 翔気の声は、部屋に響いた。

「ここまで来たんだ。いや、ここまで来れたんだ。だったらこの先も行けるはずだ。こんなところで諦めてたまっかよ!」

 できることは何かまだあるはずだ。翔気はそう確信する。あるに決まっている。自分がマリコと出会ったのも、幽霊が見えるようにされたのも理由があったんだ。だったら犯人だって探し出せるはずだ。できないはずがない。

「まず、少し整理をしよう。マリコの私物はもう残ってないんだよな。アパートはなかったんだし」

「はい、そうですが」

「でも、家族は何か持ってるんじゃないのか?」

「それは、そうでしょうけど…」

「まだ遺体は今日発見されたばかり。だったらまだ葬式とかしてねえはずだ」

「どうするんですか?」

「マリコの家族に会うのさ。それで少しでも何かがわかるかもしれない」

 マリコは焦って止める。

「やめた方がいいですよ。前にも言いましたが、私と翔気君には接点が何もないんですよ? 怪しまれちゃいますよ?」

「接点ならあるだろ?」

「え?」

「俺は、お前の遺体を発見した。それだ」

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