第五話

「早くしましょう。こっちですよ」

「ああ、わかったよ」

 仕方ない。マリコの後に付いて行く。

「ここです。さあ、掘って!」

「お、おう。待ってろ」

 手に持ったシャベルで掘り進んでいく。

「…本当にここ?」

「まだ十センチも掘ってないじゃないですか? それは見つかりませんよ。もっと深く掘らないと!」

 口だけうるさいな。幽霊だから手伝ってもくれない。黙らせるにはさっさと体を掘り当てるしか…。

「ん?」

 そういえば、体はどうなってんだ? 二十年経ってるんだから、もう骨になってる? いやもう骨も残ってない? そもそも…。

「…俺は、死体を掘ってんだよな…?」

 そう思い始めると急に恐怖が襲ってきた。一旦掘るのを止める。

「どうしたんですか! 急がないと日が暮れますよ!」

「わかってる、わかってるんだ。だけどよ、お前の体は、し、死体なんだろ?」

「今更怖がってどうするんです? ここで止められると困ります!」

 マリコの言う通りだ。ここまで来てしまったらもう、覚悟を決めるしかない。

 シャベル一つで必死に、けれども慎重に掘る。すると、何かに当たった。

「ん? 小石か?」

 しかし小石ではない。白いソレは周りを掘ってみると思っているよりも大きい。さらに掘っていくと、穴が二つ空いている。

「ぎゃああああ!」

 これは…頭だ! マリコの白骨化した、体だ! 翔気はビビッて後ろにのけ反り尻餅をついた。

「やっと、出ましたよ。私の言った通りでしょう?」

 それは、そうだが…。本当に出た時のことを全く考えてなかった。

「こ、こ、これが、頭ってことは…、こっちの方には体が…」

 落ち着け、ビビるな翔気! 少し掘って体の一部が出れば、後は警察に通報して警察に任せればいい。

「でも、頭くらいは完全に…」

 そう言って頭だけを掘り出した。マリコの頭蓋骨と向き合うと、改めてマリコが死んだことを理解した。

「ひえっ!」

 手が震えて落っことしてしまった。

「何するんですか!」

「す、済まねえ。今のは、ちょっと、本当に」

 後は警察に電話するだけ。でもこんな状態ではないカブトムシがどうのこうの言えない。はっきり言って無理だ。

 携帯を手に取る。指の震えは治まって来たが、ダイヤルを押す勇気がない。通報すれば警察は来る。でも、心の準備がまだだ。それに、どうして自分がここを掘ったのか、ちゃんと説明できる気がしない。

「待てよ?」

 そういえば、確か曲がり角に公衆電話があったはず。そこで匿名通報すれば、掘った理由は聞かれずに済む。それでいこう。

「公衆電話で通報するよ。いいだろ?」

「構いませんよ。早くしてくださいね」

 茂みから道路に出る。曲がり角に向かって進む。

「っと、あぶね」

今度は電信柱を避けることができた。

 公衆電話の受話器を取り、百円玉を入れた。

「何やってるんですか? 警察に通報するならそこの赤いボタンを押せば…」

「仕方ないだろ初めて使うんだからわかんねえんだよ!」

 一、一、〇とダイヤルを押す。そしてつながった。

「も、もしもし警察ですか!」

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