第三話
試験当日。七月の中旬だからだろうか、今日は昨日より暑い。
過去問はほぼ完ぺきに覚えた。数Ⅱもできる限りのことはやった。あとは解くだけである。
教室に行き、朝の会が終わり、出席番号に並ぶ。一時間目の試験の開始前に熊谷が翔気の肩に手を乗せ、
「今回はどんな手でいくんだ? 卵焼きは多目に用意してきたか?」
翔気がカンニングする前提で話してくる。
「いいや。今日は正攻法、つまり実力でいくぜ」
それを聞いて熊谷は笑う。
「お前、数Ⅱで五十点以上取らないといけないことがわかってるのか?」
「わかってるさ。だから、全力でいくだけだぜ」
翔気が妙に自信があることを熊谷は感じ取った。
「お前が生き残るにはカンニングしかないはず…。まさか、私にバレない方法を見つけたのか!」
「だからカンニングじゃねえってば。黙って俺の力を見てろ!」
そんな会話をしていると先生が試験を持って教室に入って来た。今回の試験の最初の教科は数Ⅱ。つまりいきなり全力を出さなければならない。だがその準備はできている!
問題用紙、解答用紙と配り終え、時間が来ると先生は言った。
「試験開始!」
「そんなバカなことが…。ありえない! 翔気、どんな手を使ったんだ!」
「小野寺君だけズルい! 補習から逃れるなんて!」
「赤点を回避するだけじゃなく、全教科で七十五点以上取るなんてすごいじゃないか」
熊谷たちが何か言ってる。そんなこと気にしない。
「俺は、やればできんだよ!」
どうだどうだ! 今の気分は最高だ。
「カンニングなんてしてないから卵焼きはなしだぜ熊谷。で、補習頑張れよ遠藤。植木は…特にないか」
そう言って翔気は教室を出た。
屋上にやって来て、フェンス越しに校庭を見た。校庭では休み時間だからかドッヂボールをしている生徒が多い。
「おめでとうございます、翔気君! やればできるじゃないですか!」
「できるだなんて思ってもみなかったよ。案外やってみるもんだな」
「これからも真面目に勉強すればいい成績が残せますよ!」
「ああ。そうだな」
今回だけ、と思っていたが今それを言うと怒られそう。だからやめた。
それから町の方を見た。
「このどこかに、あるんだよな?」
マリコはそれを聞くと、
「そうです。すぐに案内しますよ。今日は昼休みが終わったら終業式でしょう? 今日すぐに行きましょうよ」
「今日は休ませてくれよ。夏休みは長いんだし、急ぐ必要はねえよ」
マリコは眉間にしわを寄せて、
「そう言っておいて、すっぽかしたら許しませんよ? 翔気君には絶対に探し出してもらいますからね!」
すっぽかす、か。マリコは自分を頼っているが、もし本当に何もしなかったらどうするのだろう。
「なあ」
「何ですか?」
「もしさあ、例えばなんだけど。もし俺が事故って夏休みが潰れたりしたらマリコはどうするんだ? 犯人も遺体も探せなくなるぜ?」
「そしたら、そうですね…。冬休みにしましょう!」
ニコニコしながらそう答える。
「他の人を頼る、てのは駄目なのか?」
「前にも言いましたけど、霊媒師はすぐに除霊したがるんです。それに私が見える人はこの町には翔気君しかいないんです。二十年も探したんですから、意地でも翔気君にやってもらいますよ」
マジかよ…。
「そんなら、さっさと片付けちまった方がいいな」
「そうです! 私も早く成仏したいですから」
自分が犯人とマリコの遺体を探し出せば、マリコは成仏して消える。そしてその後、幽霊が見えることはなくなる。とても嬉しいことだ。でもなぜか、心の底から喜べない気がする。
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