第七話

 授業はいつも通りに終わり、放課後、市内の図書館に行った。

「ここが古新聞のコーナーか…」

 九十一年分だけでも山ほどある。ここから探すのか…。

「せめて、殺された日とか覚えてないのかよ?」

「うーん…。駄目です。思い出せません…」

 じゃあ全部調べるか。

「あ、でも、夏じゃなかった気はします。暑くなかった気がしますから」

「夏じゃないって、いつだよだから」

 もういっそ、正月から大晦日まで調べた方が早い気がする。

「始めるか…」

 まず一月一日。これは違うっぽい。次に二日、三日と調べていく。

 携帯が鳴った。母からメールだ。気がつけばもう七時半である。メールの中身は見なくてもわかる。さっさと帰ってこいということだ。

 帰り道で翔気はマリコに謝った。

「済まねえな。今日は見つけられなくて。でも半年分は調べられたはずだぜ」

「なら、もう一踏ん張りですね!」

 ここまで来たら地獄の底まで探してやるぞ。もうそんな気分だ。そして見つけて、犯人も捜しあてて、さっさと幽霊が見えなくなるようにして欲しい。

「そうだ」

 翔気は足を止めた。

「どうしたんです?」

 目の前は警察署。

「警察に聞いてみるのはどうだ?」

 我ながらいいアイデアである。警察に聞けば一発でわかる。

「やめておいた方がいいですよ」

 しかしマリコが否定した。

「何でだよ?」

「だって、まず、幽霊のこと話しても信じてくれないでしょう? それに翔気君と私には接点が何もないんですよ? 逆に怪しまれちゃいますよ」

「そうかもしれないけど、聞く方が絶対手っ取り早い!」

「あ、待って」

 翔気は警察署に足を運ぼうとした。

「どうしたのかね? 君」

 警官に呼び止められた。丁度いい。

「行方不明者を探してるんです。二十年前にいなくなってしまった、マリコっていう人です」

 警官は目をピクリとさせ、

「それだけじゃわからないなあ。それに君、高校生じゃないの? 二十年前の人に、何か用でも?」

 ヤバい怪しまれてる…。やめとけばよかった。

「すみません何でもないです!」

 慌てて自転車にまたがり、その場から逃げるように去った。

「だからやめておいた方がいいって、言ったんですよ」

「その通りだったぜ…」


 次の日も学校が終わると、図書館に行った。行く途中、翔気はマリコにいくつか質問した。

「そういやさあ、犯人の顔は見てないのか?」

「そうですね…。背中を一回刺されたのは覚えてるんですけど、その後はもう…。気がついたら道端に立っていて、誰にも認識されなくて、ああ自分は死んでしまって幽霊になったんだなあと感じましたから」

「その時金目の物とかは持ってた?」

「いいえ、確か仕事の帰り道でしたから、カバンしか持ってなかったです」

 強盗じゃないみたいだな。通り魔か?

「そうなのか…。誰かに恨みとかかってなかったりは?」

「それは…。ないと思いたいですね。変に敵を作るようなことはしませんでしたし…」

 怨恨の線もなさそうだ。


図書館に着き、また古新聞コーナーに行き、調べ始めた。

 ここで見つからないと絶望的だよな…。もし探せなかったら、マリコはずっと俺のそばにくっついてんのかな…? そしたら除霊してもらおう。

「翔気君、ストップ!」

 マリコに言われてハッとなった。

「どうした?」

 マリコは新聞の記事を指さし、

「これ、私のことじゃないですか?」

 十月二十二日の夕刊の記事。

「なになに…。行方不明者情報。会社員の尾形おがた麻理子まりこさん(二十四)。家族・会社と一か月連絡取れず。家族は捜索願を提出…」

 確かに名前はマリコで、年齢も同じ。十月の一か月前なら九月で夏は終わっている。

「これ。絶対私のことですよ!」

「そう慌てるなよ。もしかしたら同姓同名の赤の他人かもしれねえだろ」

 今度はインターネットのコーナーに移動した。

「今のパソコンって、こんなに薄いんですね…」

「二十年前と一緒にすんなよ。今検索するから」

 名前はさっきわかった。検索サイトで、尾形麻理子と入力して検索した。

「確かに新聞と同じく、十月の二十二日に捜索願が出されてるな。顔がわかればいいんだが…」

 二十年前だと厳しいか。いくらサイトを見ても捜索願が出されていて、行方不明であること以外わからなかった。

「この人がマリコと仮定すると、確かに色々辻褄が合う。」

「だからアレ、私ですって」

 マリコの言う通りかもしれない。いや、十中八九そうだろう。言っていることがここまで合っているのだから、疑う方がおかしい。

「でも、殺されたとか、殺人事件の記事はねえな。未だに行方不明扱いだぜ」

「私の遺体が見つかってないんでしょうか?」

「それだ! マリコの死体がないから、行方不明のままなんだ!」

「じゃあ私の体、探さないといけませんね…」

「あ…。」

 そう言われればそうなる。

「探すって、どうやって?」

「大丈夫ですよ。私、死んだ場所は覚えてるんです。ここからだとちょっと遠いですけど、すぐに案内しますよ」

「いやちょっと待ってくれ」

「どうしてです?」

「こっちの問題が解決しても、俺はどうなる?」

「え?」

「いきなり死体見つけました、なんてあるか! まるで俺が墓荒らしして移動させたみたいじゃねえかよ!」

 マリコは少しうーむと考えて、

「作戦は考えましょう。私は急ぎませんし。今日の分だけでも大収穫ですよ。翔気君が暇になる、夏休み辺りにしましょう」

 夏休み、か。去年の夏休みは赤点補習でお盆以外潰れた。

 大量の赤点を取ってしまった自分にそんなものがあるのだろうか…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る