第四話

 速攻で家に帰って来た。姉がもう帰ってきていた。

「姉貴! 頼む!」

「ビックリしたわ。急に何?」

「山南ホテルに連れてってくれ!」

 姉は呆れ顔で、

「はあ? この間行ってきたばかりじゃない? それに今から?」

「お願いだ。俺は車の運転なんてできねえから、姉貴しかいないんだ」

「それ私に何かメリットある?」

 それを言われては…。占い師に会いに行くなんて口が裂けても言えない。だが、ここで引き下がるわけにもいかない。どうしてもオオガミハヤシに会って、幽霊が見えるこの状態を終わらせてもらわねばいけない。

「…姉貴、土屋とかいう奴とは上手くいってんのか?」

「え…」

 あの時確か言ってたよな、土屋と相性が良いって。

「父さんが話を聞いたら何て言うかな? 激怒するんじゃないのか?」

 父は翔気に対しては何も言わないが、姉には高校時代恋愛禁止にしたほどうるさい。何でも家の病院の跡継ぎにどうしてもしたいんだと。だから他の誰かに取られたくないとか。その禁止令が解かれているのかわからないが、知れば黙ってはいないだろう。

「今、夕食までまだ時間があるぜ。だから温泉に入りに行くって言えばいい。それとも父さんにばらしていいのか?」

 汚いやり方だが、それしかない。

 姉は少しおいて、そして、

「わかったわ。今から山南ホテル、行きましょう。あんたが何の用があるか知らないけど、温泉に浸かりに行ったってことで十分よね」

 姉が折れてくれた。

「サンキュー。助かるぜ」

 翔気は姉と一緒に車に乗り、山南ホテルに向かった。


 車の中で、翔気はこれから何をするか、考えていた。

 まず、占い師のところへ行く。そして、現状を説明し、幽霊を見えなくさせてもらう。オオガミハヤシはきっと、占いを馬鹿にしたから自分を懲らしめてやろうと思って幽霊を見えるようにしたんだ。もう十分懲りた。解放してくれるはず!

 そのことだけを延々と考えていた。


「着いたわよ」

 一週間ぶりの山南ホテル。平日なので駐車場もガラガラ。

「私は温泉に入らせてもらうから、用事が済んだら呼びなさいよ」

「わかったぜ」

 用ならすぐ済む。温泉に入るために通る道に占い師はいる。ことが済んだら、俺も温泉に入ろう。

 翔気はもう、用事が済んだ気分でいた。

 ホテルに入り、エントランスでタオルを貰っていざ向かうと、様子がおかしい。一週間前と何かが違う。

「ああっ!」

 いない…! 占い師が。テーブルも看板も跡形もなくなくなっている。

「そんな馬鹿な!」

 大声を出す翔気に少し引き気味に姉は、

「どうかしたの?」

 と言った。

「ここに、前は、いたじゃないか。占い師が!」

 姉は周囲を見渡して、

「あーそう言えばいたわね。でも、今日はいないわね。それがどうしたの?」

 翔気はエントランスの受付に駆け込んだ。

「すみません!」

 受付嬢が対応してくれた。

「はい、どうかなさいましたか?」

「先週まであっちの方に、占い師がいたじゃないですか」

「ああ、大神さんね。それがどうかなさいましたか?」

「どこに行ったんですか?」

「大神さんはですねえ、ちょっと待ってください」

 そう言って受付嬢はパソコンをいじる。

「大神さんは、二月から三か月間の契約でして、もうこのホテルでの営業は先週で終了しましたよ」

「終わった…?」

「はい、そうですが?」

 翔気はその場に崩れ落ちた。

 姉が近寄ってきて、

「あんたが占いに興味があるなんて初めて知ったわ。でも大神林さん、もういなくなっちゃったなんて残念だわ」

 と言った。それでも翔気は立ち上がれず、見かねた姉は、

「大神さんは次にどちらへ行かれたのですか?」

 と受付嬢に聞いた。受付嬢は、

「わかりません。こちらには転移先のデータはないですね…」

 その言葉が翔気に追い打ちをかけた。

 姉は近くのベンチまで翔気を担いで、座らせた。ついでに自販機でコーラを買ってくれて、それを翔気は飲んだ。

「どう? 落ち着いた?」

「…」

「少し温泉に浸かった方がいいかもしれないわね。入ってきなさい」

 そう言い残すと、姉は温泉の方へ一足先に行った。その後、コーラを飲み干すと、翔気も温泉に行った。

 温泉に浸かりながら考える。次には何をすればいい…? 占い師はどこかに蒸発した。アイツに頼むことはもうできない。何か、ないのか…。

 一週間前は歌を歌うほどの余裕があったのに、今回は体を洗うことすら忘れてどうすればいいのか考えていた。

 占い師は駄目。いや、占い師じゃなくても、それと同じような力を持った人に頼めば…。でも当てがない…。しかし、それ以外に方法が…。

 のぼせて来たので上がった。姉は先に上がっておりエントランスで待っていた。

「その様子だと、あんまりよくなってないみたいね。でも、もう帰らないと晩ご飯に間に合わないから帰るわよ」

 結局、何もできなかった。意気消沈した翔気は、帰りの車の中で姉が話しかけても何も答えなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る