第三話

 やっと見つけた撃退法は安全かどうかわかるまで禁止となった。だが、安全かなんて確かめる術がない。実質的に翔気の塩は、封印されることになった。

 どうしたらいいんだ…。ここまで悩んだことは人生でない。初めてだ。しかも相談することもできそうにない。完全に詰み状態だ。

 教室での時間は淡々と進んでいく。来週の試験にこの問題は出るとか、ここは試験範囲ではないとか、言っているが全く頭に入って来ない。気がつけばもう放課後だ。

「何か抜け殻みたいだよ、小野寺君?」

 遠藤が話しかけてきた。

「一学期中間テストは簡単な方だから、ここで貯金作っておかないと危ないよ? また赤点補習になっちゃうよ?」

「俺はそれどころじゃねえんだよ、遠藤…」

「何か悩み事ー? 相談になら私、乗るよ?」

 遠藤に話してもなあ…。何も解決しないだろうに。

「別にいいんだ、解決できねえことは考えたくもねえ」

 遠藤は話を聞かずに、

「あ、もしかして幽霊の話?」

 と問いかけてきた。答える気力もなく、ただ頷いた。

「…良子ちゃんが言ってたけど、本当なの?」

 どうやら遠藤も自分が幽霊を見ることができることを知っているようだ。

「そうだ。でも視界から消えてくれなくて困ってんだよ…」

「それは大変そうねー」

 そりゃあ大変だぜ。俺の日常生活が、幽霊のせいで滅茶苦茶になるんだから。

「でもさあ」

「ん?」

「小野寺君って前、幽霊とか、UFOとか、都市伝説とか嫌いだって言ってなかったっけ?」

「ああそうだよ。確かに言ったな」

「ここに来て急に路線変えてきたよね。見えるなんて言い出すしさあ」

 俺だって変えたくて変えたわけじゃない。元に戻したいぐらいだ。

「何で見えるとか、言うようになったの?」

「え?」

「気でも引きたい子とかいるの? 何かきっかけがないとそんなことしないよね?」

 きっかけ…。

 今まで幽霊を視界から消すことしか考えていなかったが、そもそも俺は何で見えるようになったんだ?

「何で、だっけな…」

 見えるようになったのはゴールデンウィークの辺りからだが、その直前は見えていなかったはずだ。

 思い出せ。ゴールデンウィーク中に何があった? 何かなければ、見えるようにはならない。最初に異変を感じたのは…。

「山南ホテル!」

 急に大声を出したため、目の前にいた遠藤はびっくりしてひっくり返った。

 そうだ。山南ホテルだ。あそこで見え始めたんだ。山南ホテルで何か、変わったことをした記憶は…特にないが…。いや、些細なことでもいい。きっかけはあったはずだ。

 翔気は自分の記憶を辿った。ホテルに着き、夕食を食べ、温泉に入って…。

 待て。温泉に入る前に何か、あったような…。

 そうだ! 占い師! オオガミハヤシとか名乗ってた占い師と温泉上がった後に握手したんだ。それからだ!

「いい方法が一つ、わかったぜ! ありがとうな、遠藤!」

「えっ私何もしてないけどまあ、どういたしまして…?」

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