第六話 大きくなる要求
もう二か月ぐらいだろうか? 宇宙人と生物を交換するのは。あと一週間で冬休みだ。
「なあ準?」
大和が準に聞く。
「まだあのタコとつるんでるのか?」
あのタコとは宇宙人のことである。
「物が増えたぞ! 机、片付けろよ!」
健一も準に言う。準の机の上はもらった化石でいっぱいだ。
「仕方ないだろう。あとちょっとで冬休みなんだし、その時に実家に持って帰るよ」
準はあることについて悩んでいた。
「…どうするか…」
つい声に出てしまった。だが幸いにも大和も健一も聞いていない。
宇宙人は地球の生物を要求してくる。それが段々きつくなってきた。最初の内は虫や小魚程度で良かったのだが、その後入手が難しそうな生物を要求するようになってきた。
「あれに金をかけるのは…」
また出た。これには気が付かれた。
「どうした準? 金に困ってんの? 妹から返してもらえば?」
「それは正月だろう?」
いいや金には困っていない。寮にいると金を全く使わないので、お小遣いが貯まっていくだけだ。
困っているのは宇宙人の出した条件だ。もっと大きな鳥類をよこせと言い出したのだ。今までは手乗り文鳥を差し出していたのだが、それでは満足できなくなったらしい。
ホームセンターで見かけたオカメインコ。二万円。対して宇宙人が交換してくれるのは値段も着けられないほど貴重な化石。二万円で済むならマシな方か?
まだある。準は今までにホ乳類は渡していない。これから先、十分要求される可能性がある。その時はハムスターで済まそうと思っているが、霊長類とか言い出したりしないだろうか…?
金曜日の夜、準は寮を出てホームセンターに向かった。
「これ、下さい」
店員には深く言わず、オカメインコを買ってきた。そして榴ヶ岡公園に行く。
時計を確認する。九時半。そろそろだ。
空を見上げる。今日は曇りだ。星は見えない。だが光を発するものは公園に降りてきた。
「また会ったな、地球人よ。君のお蔭で私は昇進した。礼を言う」
「だからこんな立派な円盤になったのか…。今日は寒い。早く交換しようぜ」
宇宙人が取り出したのは、アンモナイトのような貝らしき生物の化石。準はさっき買ったオカメインコを差し出した。
「…もっと大きな鳥類は手に入らなかったのかい?」
「これが限界だよ、日本じゃね」
「なら仕方ない。これでいいだろう」
化石を受け取った。
「次は何が欲しい?」
毎回聞いている。いざ持ってきていらないと言われるのは困るからだ。
「次は、だな…」
宇宙人が中々言い出そうとしない。
「ホ乳類にしよう」
やはり言ってきたか…。
「今の地球上で一番繁栄しているのはホ乳類だそうだな? どんな体をしているのか見てみたい。この頼み、聞いてくれるかな?」
断る気はないが…。
「大きさは、どうする?」
「初めて要求する種だからな。君に任せよう」
準はホッとした。これならハムスターで大丈夫だろう。
宇宙人は円盤に戻ると、あるものを取って来た。
「これを見たまえ」
「…琥珀か?」
「やはり地球にも同じようなものがあるのかね?」
いっぱいあるさ。博物館で販売してるし、準も小さなときはいくつも買った。
「しかしよく見てくれ。ここだ」
宇宙人が指し示す箇所をよく見る。
「…これは、恐竜?」
「そうだ。この手の物は私も二つしか持っていない。母星の一番小さな恐竜が閉じ込められている琥珀だ」
その恐竜は地球と同じような形をしている。今まで化石は体の一部しかもらっておらず、さらに宇宙人がタコ型だから昔にはタコが繁栄していると思ったが違った。地球と同じく恐竜の時代があったのだ。
「欲しいかい?」
「も、もちろん!」
宇宙人は言う。
「ならばホ乳類をよろしく頼もう」
今日はこれで帰った。
帰り道、準は考え事をしていた。
ハムスターなら二千円ぐらいだろう。すぐ手に入る。だがあの琥珀はどうだろうか? あの宇宙人ですら二つしか持ってないのだ。明らかに価値が合わない。ホ乳類なら何でもいいと言ってはいたが、あまりにも不等な交換じゃないか? そんな卑怯なことはできればしたくない。だが、犬や猫なんて高すぎて手に入らない。いやそれ以上に寮生の自分がそれを買うのはおかしなことだ。ホームセンターが学校に通報するかもしれない。宇宙人との関係は、同じ部屋の大和と健一以外にバレてはいない。大事にしたくない。
「何考えてるんだ、俺は?」
宇宙人が何でもいいって言ったんだから、大物を用意する必要はない。しかし何か引っかかる。
「どうして宇宙人は琥珀を見せた? 今までそんなことしなかったのに…」
そこだ。そこが変だ。
もしかして、次回の交換はフェイク。本当は自分をさらうつもりなのか?
「…ちょっと不安になってきやがった…」
ちょっとどころではない不安が準を襲った。
「で、俺たちに見張ってくれと?」
部屋に戻って大和たちにお願いする。
「頼むよ。一大事になりかねないんだ」
「あんなのとつるむからだ。自己責任だぜ」
健一の言う通りだ。でも他に頼める人がいない。
「でも万が一、準の考えてることが本当ならさ、ヤバくない? 最悪宇宙戦争になりかねないぜ?」
大和が言う。準はさらに不安になる。
「…」
何も言えない。
「もうやめにしたらどうだ? 宇宙人に話をつけて」
「それはそれで逆ギレしそうだぞ?」
「じゃあやっぱ遠くから見張るしかないか」
一応どうするか決まった。後は一週間待つだけだ。
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