第五話 貿易

 週末準は仙台市科学館に行った。宇宙人を信頼していないわけではないが、化石が本物かどうか確かめたい(もっとも確かめ方などわからないが)。

「よう興児。今日は年間パスあっからよ。ほれ」

「うむ。入っていいぞ。でもアンケートには答えるなよ?」

 準はポケットから化石を取り出した。

「何だそれは?」

「これ、化石かどうか調べてくれね? 学芸員ならすぐわかるだろう?」

 興児は準から化石を受け取った。

「むむむ、見たことがない種だな。肉食獣の歯であることは確かだが…。ちょっと研究室で調べてみる。展示見て時間潰してろ」

 興児は奥に行った。準は展示コーナーに向かった。

 今日はいつもの化石のコーナーではなく、宇宙のコーナーに向かった。太陽系の模型がある。昔から変わらないため、冥王星がまだ惑星として展示されている。横には準惑星という注意書きもある。さらに追加で準惑星のケレスとエリスもある。これらは新しい。

 宇宙人の母星は三十光年先らしいな。光の速さで三十年かかる道のり。それを一週間で往復できる円盤。もし侵略に来られたら地球に勝ち目はなさそうだ…。あの宇宙人が友好的で助かった。

 準が安堵してため息を吐いた途端、興児が走って来た。

「おい準! お前、あれどこで手に入れた?」

 興児の顔は汗びっしょり。きっと予想外の結果が出たのだ。

「人から貰ったんだ」

 準はそう返した。嘘は言っていない。宇宙人だって立派な人だ。

「どこの野郎だ? ソイツは?」

「それよりさ、化石の方はどうだったんだ?」

 この状況なら聞かなくてもわかるのだが…。一応確かめる。

「あの化石の生物は特定できなかった。だがそれ以上に、化石に含まれる原子が地球ではありえない量含まれていた。あれは地球上のものじゃない。簡単な検査しかしていないが、俺は隕石か何かだと思う」

 宇宙人の化石は本物だった。

「そうか。じゃ、化石は返してくれよな」

「何? 研究させてくれよ? もっと調べれば大発見なんだぞ?」

 準は冷たく返す。

「俺はあの化石を寄贈したんじゃない。それに興児、俺の意見は聞かないで自分たちの言い分は通そうとするなんて随分都合が良くないか?」

「…準!」

 興児は少し怒っている。だが準は腐っても博物館の客。その気になればクレーム一本で興児をクビにできる。

 結局興児は準の言う通り、化石を返却するしかなかった。

 準は満足して博物館を出た。この化石は学芸員のお墨付きだ。


 宇宙人に与える生物を集めるために、準はホームセンターに来た。東北の秋、多くの生き物は死ぬか冬眠するかだ。野生の個体を集めるのは難しい。だったらホームセンターで、年中売っているコオロギや金魚などを安く買って、化石と交換すればいい。

 ペットコーナーに来た。コオロギが十匹で二百円。かなり安い。金魚も一匹五百円もしない。

 寮でペットを飼うことは禁止されているので、宇宙人との約束の時間の前、ホームセンターが閉まるギリギリの時間にこれらを買った。そしてまた、榴ヶ岡公園にやって来た。

 時間になると円盤が降りてくる。最初のやつより少し大きい。これは期待できそうだ。

「よく来てくれた、地球人。助かるぞ。今日はどんな生物を持ってきてくれたのかね?」

 ビニール袋に入っているコオロギと金魚を渡した。

「こっちの奴は前の生物と同じタイプだな。こっちは違う。水の中でも生きていられる生物が地球にもいるのか」

「そもそも地球上の最初の生物は海の中で誕生したんだぜ。当たり前さ」

 生物を円盤の中に運び込むと宇宙人は、今度は前よりも大きな化石を持って来た。

「前に渡した恐竜よりも大きい奴の爪だ。受け取ってくれ」

「おお…!」

 黒光りする爪の化石。準は感動した。

「もっと、ないのか?」

 準は聞いた。

「今回、君はあまり多くの種を用意していなかっただろう? これぐらいがちょうどいい」

 なら仕方ない。この日の交換は終わりだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る