第四話 異星人との交流

 準がそう言うと健一が笑い出した。

「まさか。超能力だの幽霊だの、嘘っぱちに決まってる。全部作り話だ。あるんならどうして解明されな…」

 急に話をやめる健一。一点を見つめて動かない。

「どうした? 何かあったのか?」

 大和が振り返る。すると大和も何も言わない。

「二人してどうし…」

 準は、自分の目が信じられなかった。そこにはデカい円盤があった。

「も、もしかして、マジ?」

 三人は近くの茂みに隠れた。

「ついに地球侵略が始まったのか?」

「いやハロウィンの予行練習じゃないのか?」

 様々な憶測が飛び交う。

 円盤の入り口が開いた。中から出てきたのは見たこともない生物。

「ちょっと待って、あれはないだろう」

 大和が笑っている。

「宇宙人とか信憑性ゼロだが…。今時タコ型っているのか? グレイタイプが主流じゃないのか?」

 健一が言う。そんなことを言われても、目の前にいるのが宇宙人なのは確かだ。昔の話で良く出てくるタコ型。

「ってことはあれは火星人なのかね?」

 火星に生物がいるとは思えない。NASAだってそんな発表していないのだから。

「そこにいるのは誰だ?」

 宇宙人がこちらに気が付いた。そして歩み寄ってくる。

「に、逃げようか…」

 準は言った。

「馬鹿言え! 宇宙人はレーザー銃持ってるんだぞ? 俺たちゃ一撃でお終いだ!」

 大和がそう返した。しかし地球侵略が目的ならじっとしているわけにもいかない。

「自衛隊に通報するか?」

「宇宙人なんて誰が信じる?」

 健一が反対する。

 そんな話をしている間にも宇宙人は三人との距離を縮めた。

「どうしたのだ、地球人よ。我々は侵略する気はないぞ」

 宇宙人が言う。

「じゃあ何で地球に来たんだよ? つーか言葉何でわかる?」

 準が宇宙人にそう言った。すると、

「もしものコンタクトのために、着地ポイントの言語をインターネットを通じて学んだ」

 なるほど。それなら日本語を話せるわけだ。

「侵略が目的じゃないなら何しに来た? 貿易とかか?」

 もしそうなら自分たちが仲介すれば大儲けできる。大和はそう思って言ったのだろう。

「違う。地球の技術など母星に要らぬ。我々は他のものを求めて三十光年先からやって来た」

 こんな円盤飛ばして地球に来れるのだから、そりゃ地球の技術なんて宇宙人からすれば時代遅れなんだろうな。

「我々は、異星の生物を調査しに来た。この星に生物がいるとわかったからやって来た。戦争する気も、通商する気もない」

 宇宙人は自分たちの詳細を話した。

「…つまり、出来るだけ俺ら地球人にバレずに生物のサンプルを採取しに来た、ってわけだな?」

「そうだ。なかなか賢いではないか。我々の予想以上だ」

 少し馬鹿にされたか? そんな気がした。多分間違ってない。

「しかし見事に俺たちに見つかっちまったわけだ」

 健一が言う。

「そうだ。光学迷彩システムが不調のようだ。しかし失敗は利用しよう」

 宇宙人がそう言った時、準たちは少し覚悟した。自分たちをさらうのでは? キャトルミューティレーションされる…。

「君たちに協力を仰ぎたい。母星のこのプロジェクト、予算はたっぷりだが人手が足りない。現に地球担当は私ともう一人しかいない。しかも与えられた宇宙船も小さく、比較的生物が小さな日本をターゲットにするほかなかった」

「協力って、どんな?」

「この星の生物を捕まえて我々にくれればよい。さすれば君たちの望む物と交換してあげよう」

「じゃあ例えば」

 そう言って準は草むらに入った。そしてそこから、コカマキリを一匹捕まえた。

「こういうのでいいの?」

 宇宙人はコカマキリを受け取った。

「興味深い生物だ。母星にはいないタイプだ。これ一匹だけか? できれば繁殖することが可能な生物が望ましいのだが…」

 コカマキリを小さなケースに入れた。

「その虫はちょっときついね。他の虫なら簡単だと思うんだけど、探してみれば?」

 そう言うと宇宙人は草むらに入って探し始めた。

「なあ準」

 大和が小声で言った。

「逃げた方がいいんじゃないのか? 相手は腐っても宇宙人なんだぜ? 何されるかわかんねえぞ?」

 健一はそれに賛同し、

「俺はもう帰りたい。宇宙人なんて信じられないし、協力なんてバカバカしい…」

 しかし準は違った。

「俺は、協力してみようかな。それなりの見返りだってあるんだろう?」

 相手は宇宙人。だが準は怖くなかった。寧ろ面白そうだ。

 健一が時計を確認する。

「そろそろ門限だ、俺は帰る!」

「なら俺も。準はどうする?」

 準は答えた。

「俺はちょっと残る。まだ見返りを貰ってないからな。それに門限なんてよ、寮のバアサン騙せば大丈夫さ」

 大和と健一は帰って行った。準は宇宙人に話しかける。

「あの~。さっきのコカマキリは何と交換してくれるの?」

 宇宙人はこっちを向いて、

「そうだった。お礼がまだだったな。忘れていた。ちょっと待っててくれ」

 一旦円盤に戻る。何をくれるのか、実は準はあまり期待していない。さっき宇宙人は地球人と接触しないでサンプルを集めると言っていたからだ。円盤にも余計な荷物はないだろう。

「こんなのしかないが、どうかね? 不満なら一度母星に、貴重なものを取りに戻るが?」

 宇宙人の差し出したものの中で、準の目に真っ先に入ったのは石だった。何か模様のようなものが表面にあった。

「これは、何の石?」

「これかい? これは我がコレクションの内の一つだ。母星の二億年前の恐竜の歯だったかな? 小さくて価値がなくてね。それに母星では化石なんて趣味の領域、いくら持ってても金にならない石ころさ。これでいいのかい?」

 異星の恐竜の化石。宇宙人にとっては価値のないものかもしれないが、準にとっては喉から手が出るほど欲しいもの。

「もっと大きいのはないのか?」

 地球の恐竜ですら十五メートル前後はあったのだ、異星の恐竜だってもっと大きいはず。

「今、手元にはない。一度母星に帰らねば補充できない」

 準は声を上げた。

「一度戻れば、もっと大きいのが手に入るのか!」

「入る。母星の人々は現在にしか興味がない。私のような変わり者でもない限り、化石なんて集めやしない。我々にとって、地球の生物サンプルの方が貴重なものだ」

 準はその化石を受け取った。

「取引成立だな、地球人よ」

「なあ、またここに来ないか? その時はもっと地球の生物を集めて、まとめて渡す。化石と交換してくれればいい。二人で探すよりも効率いいだろう?」

 準は宇宙人に迫った。もっと化石が欲しい。それがその辺の生物で買えるなら安いものである。

「…わかった、では毎週金曜日にここに来よう。その時に生物をよろしく頼む。今日はこれで帰るとする」

 そう言って宇宙人は円盤に乗り込み、円盤は空の闇に消えて行った。

「異星の恐竜か…。俺、スゲーもん手に入れたぞ!」

 嬉しさのあまり叫びたくなった。

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