第七話 奇跡の勝利

 負傷者の手当は順調に進んだ。泉の水は良く効いたし、薬や包帯などにも困っていない。身を隠すことができたのだから当たり前である。

「しかしまあ、無線が通じねえってのは少し困るな。兄貴と連絡がとれねえや。援軍、ちゃんと来るんだろうな?」

 アダムス中尉が無線機に耳を当てながら言った。

「無線が通じないのなら、なおさら増員するんじゃないのか? 俺たちが全滅したと思われても不思議じゃないからな」

 ブラッドが返す。

 少しすると音が聞こえる。ガンシップの音だ。恐らく追っ手の部隊が自分たちを見失ったので、ガンシップで探しているのだ。

「敵のガンシップが近くに来ているぞ!」

 部隊の誰かが叫んだ。その一言でみな、慌てふためく。

「また撃ち落とすのか、インガルス少尉?」

 中尉がブラッドに聞く。

「いや駄目だ。ガンシップの種類がわからなければ燃料タンクの位置もエンジンの部位もわからん。おまけに電波が通ってなくてグラディーのパソコンでネットワークにアクセスすることもできない」

 だが何かしなくては、そう思ってライフルを音のする方へ向ける。

「その必要はありません」

 森の獣が言う。

「あなた達の敵はこの聖域には入れません。入れない生物はこの聖域のことを認知できません。だからあなた達が静かにしてくれていれば、敵は攻撃してこれません」

 その一言で部隊は静まり返る。

「本当に?」

 エールが念を押す。

「本当です」

 その場にいる全員がその言葉を信じた。

 ガンシップが二機ともやって来た。サーチライトが地面を照らす。

「来るぞ…」

 バババババ、と音を立てながらガンシップが通る。サーチライトが部隊の隊員を数人照らした。

「見つかったか?」

「静かにしろ。様子が変だ」

 ガンシップのサーチライトがあたり一面を照らしている。だが攻撃してこない。こちらから見れば全員照らされ、見つかっているというのに。

「だから言ったでしょう。敵にはここはただの森としか思われていません。あのヘリに乗る人の瞳に、あなた達が写ることはないでしょう」

 森の獣の言うことは本当だった。敵のガンシップは二機とも、過ぎ去って行った。


「これで最後。一通り終わったよ、兄さん」

 ミハエルが中尉に報告する。

「わかった。だが後は…」

 怪我の手当てが終わったらここを追い出されるのか? 少し疑問に思う。

「森の獣よ、俺たちは敵から隠れる理由を失った。もうここを出ていかなければならないのか?」

 ブラッドが恐る恐る聞いた。すると森の獣は、

「あなた達が出る時と判断するまで、ここに留まることを許します」

 そう返ってきたので 隊員たちは安心できた。

「長居するのも申し訳ないことだ。明日準備ができ次第ここを出発する! 今晩はゆっくり休め」

 アダムス中尉は部隊にそう告げた。


 次の朝。起きたというより轟音に叩き起こされた。

「何の音だ?」

 ここにいてはわからない。

「みんな準備はいいか? 出発だ!」

 アダムス中尉を先頭に部隊は出発した。ブラッドは最後尾にいた。

 自分が聖域から出る時、ブラッドは後ろを振り向いた。

「ありがとう、森の獣、いや守り神。礼を言う」

 聖域から出ると、そこには普通の林が広がっていた。

「音の正体がわかったよブラッド。レーダーにガンシップが二機とも映ってない。援軍の空軍機に撃墜されたんだよ」

「そうか。それは良かった。だが、先にアダムス少佐に連絡を入れないとな。俺たちが音信不通になって心配しているだろう」

 無線機をグラディーから受け取る。そしてスイッチを入れる。

「一体どうしたんだいインガルス少尉? 昨晩から突然連絡が途絶えたので捜索隊も出動させようと思っていたよ」

「心配かけました。ですが大丈夫です、少佐。これから進軍を再開します。援軍はどの辺りに?」

「昨晩君たちが消えたポイントに援軍を送った。もうついているはずだ」

 そのことを中尉に伝え、現場に向かう。

「ここら辺だよな…。お、いたぞ!」

 援軍はこの部隊の三倍いる。これなら敵軍と戦っても勝てる。そう確信する。

「敵のガンシップは二機とも落としました。中尉、これより進軍を開始します」

「わかった」

 ブラッドが前に出た。

「敵兵がいたら俺が片付ける。グラディー、ドローンを飛ばせ」

「言われなくても」

 音もなく飛んで行くドローン。早速敵を発見した。

「右に三十人いる」

「わかった。エール、撃て!」

 ブラッドとエールがまず敵兵を撃つ。これに驚いている間にアダムス中尉が先陣を切って敵に攻め込む。いきなりの強襲に驚いて何もできない敵兵たち。あっと言う間に戦闘が終わる。そして進軍し、要塞にたどり着く。

 ブラッドが要塞の見張りを撃ち抜くと、要塞から敵兵が出てきた。が、その数はこちらの半分よりちょっと多い程度。全員歩兵であり、戦車の類は出てこない。

 ブラッドたちが援護し、アダムス中尉たちが攻め込む。数で勝るこちらには負けようがなかった。

 数十分もしないうちに要塞は陥落した。

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