第四話 獣の出現
部隊は進軍を続ける。森の奥深くに入っていく。兵力の増強に失敗した敵軍は、基地を捨てて逃げて行った。だからこの部隊もそれを追う。
足元の蛇を踏みそうになった。
「流石にここまで来ると生き物が多いな」
「敵陣営はもっと奥に後退した。こんなところで止まってはいられない」
そう急かすなよ、と思う。森の生き物が邪魔で思ったように歩けないのだ。
目的地に到着した時には日は完全に沈んでいた。
「進軍は明日の午後から。今日はここでキャンプだ」
隊員たちがテントを張る。ブラッドたちも周囲に生き物がいないことを確認したらテントを張る。
「インガルス少尉。朝はお手柄だったね。見事にヘリを落としたんでしょう?」
「ミハエルか。何で人づてなんだ?」
「寝坊したからだよ…。毎日負傷者の手当てをしないといけないからね。最近全然寝れてないんだ」
「大変だな、衛生兵も。猟犬の世話並みに」
いきなりグラディーのパソコンのアラームが鳴った。
「敵か! グラディー?」
「数は三十。割と戦力が残ってるみたいだよ」
「どうするのよブラッド?」
ここに来たばかりだ。どこが狙撃に最適かまだわからない。
「仕方がない。アダムス中尉の指示に従うか。サブマシンガンをくれ」
「ブラッド、あんたサブマシンガンはノーコンでしょう? 私が撃つ」
「…。わかった。気を付けろ」
中尉の命令が下った。散開して迎撃せよとのことだ。エールはその指示に従う。一方、ブラッドはグラディーを連れて木に登ってみる。狙撃のためだ。
「敵は散開してる。狙える?」
「木が邪魔だ。熱源探知機をくれ。ライフルに付ける」
ライフルに熱源探知機を付けた。これなら夜でも敵がよく見える。
スコープを覗いて敵を探す。
「おや?」
先陣を切っているのはアダムス中尉。的確に指示を出しているのだろう、暗闇の中、綺麗に隊列を展開している。
「ここは中尉に任せてみるか。もし被害が増大しそうなら手伝おう」
数分間銃声が聞こえる。すると、止まる。
「やんだか。グラディー、こっちの被害状況は?」
「負傷者は多いね。でも死んだ人はいないよ。ん? 誰かが隊列から離れていくぞ? どうしたんだろう?」
いきなり無線が鳴った。
「どうしたエール?」
「大変なの! アダムス中尉に代わるわ」
「聞こえるかインガルス少尉! 仲間が一人、獣に襲われた!」
「獣?」
グラディーがレーダーの一点を指さす。
「これかな?」
「で、俺にどうしろと?」
「仲間を救いたい。俺たちが今これ以上森の奥に入るのは危険だ。狙撃ができるお前なら」
「獣を、撃てと?」
ブラッドは人間は何度も撃ってきた。しかしそれ以外の生き物は一度として撃ったことがない。戦場で出会っても威嚇射撃するだけでわざと見逃している。そうすることに決めている。
「早くしないと危険だ!」
スコープを覗く。仲間は…見えた。獣に引きずられている。
「どうして撃たないんだよブラッド?」
「獣が…」
「動物を殺さない流儀はわかってる。でも今は!」
「違う! 俺だって仲間は救いたい。だが、獣はこちらに仲間を向けて離れていく…」
スコープを覗きながらグラディーに返事をする。獣は仲間を盾にしている。仲間は獣から逃れようと必死に抵抗している。その抵抗が邪魔だ。不規則な動きが邪魔で獣を狙えない。ならば動かなくなるのを待つか? だがその時は、仲間が死んだ時だ。
「どうなっているインガルス少尉! 何故撃たない?」
中尉に注意される。
獣が向きを変えた。
「今か! …く」
獣の正体はわからない。だが動きが猟犬と一緒だ。
俺に犬を撃てと…?
結局ブラッドはトリガーを引けなかった。
「レーダーから消えた…。仲間をロストしました、中尉…」
「なんだと…?」
敵の迎撃には成功した。だが、部隊は森の獣によって、死者を出してしまった。
「その状況じゃ仕方ないよ。兄さんも怒ってない。元気出しなよ少尉」
ミハエルに言われる。しかし自分のしたことはわかっている。仲間を見殺しにしたのだ。動物は撃たないという、自分で決めたルールを守ろうとしたから。
ブラッドを責める者はいなかったが、ブラッドは責任を感じていた。
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