第七話 遺跡の正体

 五人が目にしたものは五人とも信じられなかった。この部屋だけ、生きている。まるで現役の研究施設のようだ。

「これが、こんなところに? どして?」

 恵理乃の問いかけに答えられるものはいない。

 部屋の中央には何か、スーパーコンピュータらしきものがある。

「これは…何なんだ一体?」

 烈成の声に誰かがこう答えた。

「古代人が残したテクノロジーだよ。世界征服のための機械だ」

 五人が振り返る。そこには教授がいた。

「ど、どしてここに?」

「私の目を誤魔化せると思っているのか、心外だな。この民宿の近くには売店はないし、何も道具がないのに肝試しなんてできるわけがない」

 言われてみればそうだ。自分たちが持っているのは懐中電灯と携帯ぐらいだ。

「これはどういうわけですか教授!」

 烈成が怒鳴った。教授は部屋の中に入ってくる。

「古代人はこの機械を作ったのは、世界を征服するためだ。当時なら他の地域の人類なんて簡単に制圧できる。実は私はこの地方の出身でね。幼い頃から遺跡の話をさんざん聞かされた。その時は嘘っぱちの神話だろうと思っていたが、そうではなかった。先祖代々受け継いだ神話は本物だったのだ。言い伝え通り城の上の階は居住スペース兼生物研究所であり、下の階にこの機械があった。大河くん、君が発掘したのは私の先祖だよ。その内の一人が鍵を持っていた。その鍵のお蔭でこの部屋に入ることができた」

 機械の前まで来ると教授は、

「さあ、機は熟した。今こそ世界をこの手に入れる時だ」

 機械が音を上げた。中のモーターが高速回転でも始めたのだろうか?

「この遺跡のさらに下に隠されている兵器が目覚めれば、抵抗できるものは何もない! 諸君、世界が変わる瞬間を見せてあげよう。もっともその後で邪魔な君たちには消えてもらうがね」

「そんなことさせるか!」

 悟が機械の別の部分のボタンらしきものをいじくる。

「無駄だよ。この機械は知識があるものしか操縦できない。私は全て頭に入っているが君は違うだろう?」

「くそ!」

 何かできることはないのか? 本当に世界征服が始まってしまうのか?

 部屋がゴゴゴと揺れ始める。下で何かが動いている?

 こうなっては教授を止めるしかない!

「むん!」

 恵理乃が教授に体当たりをした。

「うぐ」

 怯む教授。だがあまり堪えていない。

「邪魔はさせん!」

 教授が恵理乃の顔を思いっきり引っ叩いた。かけていた眼鏡が弾かれた。

「きゃあ!」

 恵理乃はその場に倒れ込む。

「大丈夫か恵理乃!」

 悟が恵理乃のことを抱きかかえる。

「何か、ない? 教授を止めることができるものが…」

 だが自分たちは懐中電灯と携帯ぐらいしか持っていないのだ。武器にできるものではない。

 揺れが強くなっていく。大河や祥子はもう部屋から出ようとしている。烈成が教授に飛びつくが、すぐにつきかえされる。

「やっと、やっとだ。世界が私のものになる! この瞬間をずっと待っていた。研究会から追放され、苦しい思いも何度もした。それが報われる時だ!」

「何か、何か…」

 何かあるはず。眼鏡をかけ直しながら恵理乃は考えた。

 古代人は世界征服を何故しなかった? きっと誰かが賛成しなかったんだ。でも今の教授のように邪魔する人は跳ねのければいい。じゃあどうして機械は作動しなかった? 止める方法がどこかにあるはず。そうでなければ世界は二百万年前に古代人の物になっている。

「上の階?」

 あれはただの居住スペースだ。あそこを探しても何もない。いや、確かパソコンみたいなものが並んでいた部屋があった。そこに賭ける!

「みんな! 上の階に!」

 恵理乃たちは部屋を出て階段を上がり、上の階のパソコンが置かれていた部屋に入る。

「何だこれは? さっきはこうなってなかったぞ?」

 烈成が驚く。無理もない。ここのパソコンも稼働しているのだ。

「これをどにかすれば…」

「どうにかって、どうやって?」

 祥子が言う。恵理乃は答えずに機械を触る。

 稼働しているということは、どこかが一番熱くなっているはずだ。そこを探す。

「…あった!」

 一番奥の機械。これが熱い。触り続けていると火傷しそうである。

「これを壊せば…」

「でも俺たちは、スコップも何も持ってないんだよ?」

 大河が言う。確かに何も持っていない――いやある!

 懐中電灯。これを思いっきりぶつければ機械を壊すことができるかもしれない。いやできる。機械の一つは壊れている。これは二百万年前に下の機械を止める時に壊したんだ。

「いっけええ!」

 懐中電灯を叩きこむ。懐中電灯の中の豆電球が割れても構わず続ける。

 だが懐中電灯の方が先に悲鳴を上げた。こちらが先に壊れてしまった。みんなも何かしらを機械に投げつけたが、効果なし。

 駄目なのか…。

「諦めるものか!」

 恵理乃は思いっきり機械に向かって突進した。

 ぶつかった時、すごい痛みを感じた。だが同時にガシャンという音がする。やった。壊せた。機械は機能を停止し始めた。

「な、なんだ…」

 部屋全体が揺れる。天井が一部落ちた。それを見た一行は足がすくんで動けなかった。

「城が眠るぞ! みな逃げよ!」

 この状況で誰かが叫んだかはわからなかった。だがその声のお蔭で動けるようになった。みんな部屋から出て階段を下り、城から脱出する。

「待って」

 教授がいない。

「見殺しにはできない」

 恵理乃は反転し、下の部屋に向かった。みんなが行くな、と叫ぶのが聞こえるが、止まらなかった。

 教授は機械の前にまだいた。ところどころ崩壊し始めているにも関わらず。

「教授! 逃げないと死にます! 逃げましょ!」

 だが教授は、

「世界は私のものだ! 私が世界の王になるのだ」

 そんなことをただうわ言のように繰り返している。

 この人はもう駄目だ。恵理乃はそう判断した。恵理乃が反転しようとした時、この部屋の機械が床や天井と共に完全に崩れ落ちていくのを見た。

 崩れ落ちる城。恵理乃は奇跡的にも脱出することができた。

 地上に出た。そこには真央がいた。

「何やら騒がしいと思ったら…。教授は失敗したみたいね」

 真央は全て知っているはずだ。

「どして黙っていたんですか? 教授のことと遺跡のことを!」

「私はこの遺跡のことを発表して、ただ有名になりたかっただけよ。でもそれも全部パーね…」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る