第五話 深まる謎

 目の前に階段が現れた。階段は上に続くもの、下に続くものがある。

「どっちに行くんですか? それともどっちとも行きますか?」

 教授が時間を確かめる。

「今日はもう時間がない。片方だけ行こう。悟くんと恵理乃くんと祥子くんは上を、私と真央くんは下を。五時半までは発掘作業を続けてくれ」

 二手に分かれた。

 恵理乃たちが行った上の階には、部屋が三つあった。その一つに入った。

「うわぉ」

 家具のようなものがある。

「これは机? この横は椅子かな? でそっちのはベッド?」

 生活空間だろうか? 本当に誰かがここで暮らしていた? しかもそれが二百万年間誰の目にも触れず、眠っていた?

 どうしても信じられない話。だが次の部屋はもっと信じられないものがあった。

「…ガラスだ」

 悟が発見した。割れて足元に散らばっていた。

「しかもここに窓があったんじゃないぞ。あれを見ろ」

 三人が目を向けた先にはガラスで区切られた空間があった。

「まるで飼育ケージね。古代人がペットでも飼ってた?」

 区切られた空間に恵理乃が入った。

「そみたいよ?」

 ここにあるのは人間の骨じゃない。だが…。

「でもこれは有りえんよ。だってこれ…」

 小さいが、首長竜と思わしき骨格。

「古代人が首長竜を? 無理だよ、白亜紀には絶滅してるんだよ?」

 そう言われればそうである。

「ねえちょっと気付いたんだけど…」

 祥子が何か言いたげな顔だ。

「どったの?」

「普通古代文明の遺跡にはあるはずなのに、ここに入ってから見かけないんだけど…」

「何を?」

 悟が問う。

「壁画よ。壁画の他に、壁に文字が刻まれたのを見た?」

 ここで二人は気付く。

 そうだ。この城に入ってから、いや発掘した土器にも文字らしきものは無かった。

「じゃあどうやって物事を記録した?」

「まさか…。古代人は紙を既に発明していて、それで?」

「でも巻物とか本とかはどこにもないぞ?」

 結局この部屋では結論が出せなかった。最後の部屋に行く。

「嘘でしょ!」

 目玉が飛び出しそうになった。プラスチックと思わしきものでできた箱がいくつかある。薄っぺらいものもある。これは現代で言うならパソコンだ。一つは完全に壊れ、形をとどめていないが、他のはどこにも異常はみられない。

 三人はそれ以上考えることができず、上の階から帰って来た。


 民宿に戻ると夕飯を済ませた。真央の言う通り烈成は民宿にいた。帰るつもりはないらしいが、これ以上遺跡発掘に関わる気もないと言う。

 恵理乃は悟、祥子、大河を集め、今日のことをまとめた。

「…城の中でそんなことが? 俺も見てみたかったな」

 大河が驚いている。

「大河の方は何かあったの?」

「棺は五個全部掘り返した。装飾品の中に鍵みたいなのがあって、教授はそれだけ持って行ったよ。他には王冠と杯が大量」

 鍵…?

「……俺なりに話をまとめてみたんだがよ、いいかい?」

 恵理乃が考えている時に悟が話を始めた。

「この遺跡を残した古代人は、今よりも高度な科学力を持っていたんじゃないか?」

「どゆこと?」

「地下の城の上に矢型遺跡はあった。ということは城は村の下に隠されていたということ。地下街みたいなものだろう。でも恵理乃が見つけた首長竜の化石。ガラスの飼育ケージには首長竜が飼われていたんじゃないか?」

「でも白亜紀に絶滅したって悟が…」

「確かにそう言った。ひょっとしたら古代人は絶滅動物を蘇らせる術を持っていたんじゃないか? 最後の部屋にはコンピュータらしきものもあった。古代人の科学技術が首長竜の蘇生を可能にし、実際に飼育していた、と考えれば今日見たものは納得がいく」

 馬鹿げて聞こえる話。だが誰も笑わず、反論もしない。

「じゃあ、教授と真央さんはさらに地下で何を見たんだろ?」

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