第四話 探索

「いててて…」

「祥子大丈夫?」

「亀裂入ったからそっちには行くなって言ったばかりでしょ! この馬鹿ァ!」

「大丈夫そね」

「当たり前でしょ! こんなところでくたばってたまるもんですか!」

 上から声が聞こえる。

「恵理乃! 大丈夫か!」

「悟ー。大丈夫よ。少し落盤しただけ」

 ところで自分はどこに落ちたのだろうか? 辺りは土煙でよく見えない。でもどうして落盤? 地下に空間がなければこんなこと起きっこない。

「…ガス?」

 しかし普通に呼吸できる。異臭もしない。

「大丈夫かい、恵理乃くん、祥子くん!」

「教授! 私も恵理乃も怪我はしてませんが…。周りがよく見えませんし、もっと落盤するかもしれません。すぐここから脱出しないと危険だと思います。綱梯子とかないですか?」

 自分たちがいる場所は太陽の光が差し込んでいるので明るい。だが、奥の方は良く見えない。何かありそうな感じである。

「悟! 私のカバンから懐中電灯持ってきて」

「わかった」

 祥子は地上への脱出を試みるが、恵理乃は悟が懐中電灯を持ってくるのを待っていた。

「恵理乃! 早く上に出ないと危険なのわかってる? だいたい誰のせいでこうなったのか…」

 悟が上から懐中電灯を投げて寄こした。そしてそれで、奥を照らす。

「祥子、これ見て」

 祥子が振り返る。

「…これは?」

 先ほどまで怒っていたのを忘れるぐらいの衝撃が祥子に走った。

「門、じゃない?」

 光で照らされた部分を考えるに、これは城壁だ。そしてその一部が門になっているのだ。

「どうして地下に門なんかあるの?」

「私に聞かれても答えられんよ」

 恵理乃が門をくぐろうとしたら、

「待つんだ恵理乃くん。そこから先はみんなで一緒に行こう」

 といい、鉄製の梯子を下した。

 祥子が要求したのは縄梯子だった気がするが。どうしてこんな立派な梯子が用意できたんだろう?


「全員、ヘッドライトの着用はしたか?」

 教授を含め七人がこの地下の門の前に集まる。そして矢型遺跡の下に存在する、謎の城に突入する。

 門は錆び付いていたので簡単に開けた。

「本当に二百万年前にこんな技術力が…?」

 烈成の声が地下で響く。

 進むと城の中庭、のような場所に辿り着いた。

「凄いわ」

 真央は写真を撮りまくる。

「ねえあれ見て!」

 大河が指差す方向には石が積まれている。まるで墓石のように。

「これは…墓か?」

「掘ってみます?」

 誰の返事も待たずに恵理乃はスコップで掘り始めた。サクサク掘れる。が、途中でスコップが何かに当たった。

「何だろこれ?」

 それを掘り出す。人が一人入れそうな箱が出てきた。

「棺桶?」

「棺桶だな」

 棺桶の蓋をみんなで外す。

「おお…」

 古代人の遺体だ。中に入っていたのは朽ち果てた骨格と装飾品。多分偉い身分の人間だったのだろう。

 その装飾品の内、王冠のようなものを祥子が拾い上げる。

「これは…重い。純金かな?」

「馬鹿言え。古代人にそんな技術力あるはずない!」

 烈成が怒鳴り返す。だが、

 だが周りにはその技術力を示すかのようなものが大量にあるのだ。

「ここ一帯に並んでいるのは墓石と見て間違いないだろう。この城は何代か続いていたようだな。誰か全部掘り返してくれないか?」

「俺がやります」

 大河が手を挙げた。

「元々この墓場を発見したの俺ですし」

「そうか。それならここは任せたぞ、大河くん。きっと重要なものが発掘できるはずだ」

 大河は一人で墓を掘り始めた。

一行は進み続ける。いよいよ建物の中に入る時だ。

「こういうのって、古代人が罠はってたりとかしないですかね? 映画ではよく見るんですが…」

 祥子の声で一行は足を止める。

「その可能性もあるな。ここは誰か一人が先に進もう。その方が被害を最小限にできる。誰か行かないか?」

 教授が行けばいいのに。誰も手を挙げない。

「恵理乃。あんたが行きなさいよ」

 真央が唐突に言った。

「えええ! 私がですか?」

「これ発見したの、あんたでしょう」

 確かにそうだけど、それが原因で指名されても…。

「恵理乃に行かせるか。俺が行く!」

 悟が言う。

「悟…」

「大丈夫さ。門の外に罠が無いのなら、中にだって無いよ」

「なら良いけど。気を付けて!」

 悟が先行して歩く。何もないことを確認すると一行は後ろから付いて行く。


 城の内部に入っていく。中は一本道だ。

「ねえこれ」

 恵理乃が壁に付いているものに気が付いた。

「手すりじゃない?」

 ちょうど手を乗っけられる高さに手すりがある。

「あ、見て!」

 祥子が壁の上の方にあるものを指した。

「照明…?」

 壁にはそれが一定間隔で並んでいる。

「いやでもこれは、私たちから見れば照明に見えるだけで、実際は違のかも…」

 恵理乃が慌てて言ったが、誰も耳に入れなかった。

 烈成が切り出した。

「教授。本当にここは、二百万年前の遺跡なのですか?」

「どうした烈成くん?」

「墓といい、王冠といい、手すりといい、照明といい、古代人が持っているはずがないものばかり。それを考慮するとこれはつい最近現代人によって建てられた建造物と考えるのが自然です。そうでなければおかしい。二百万年前の人類が、どうやったら電気という概念に気が付けるんですか!」

 烈成が言うことは凄くわかる。恵理乃も同じことを考えていたからだ。人類が文明を持ち始めてから一万年も経っていない。それなのに二百万年前にこのようなものが存在するはずがない。

「おまけに俺たちはこの遺跡の場所も詳しく教えてもらっていない。こうなると教授が仕組んだと考えるのが一番納得がいくんです!」

 教授は不愉快な顔をした。

「私が? 何のために? どうして偽装何かをする必要が? 君たちを騙すことが目的でこんな手の込んだ仕掛けをするとでも? そうすることで私に何の得があるというのかね?」

 その言葉に烈成は言い返せなかった。

「烈成くん。君は地上で待機していたまえ。隊列を乱すようなことは許せん。発掘に支障が出る」

 烈成の方も心地よく思っていないらしく、

「じゃあそうさせてもらいますよ。こんな嘘っぱちに付き合ってられません。俺は帰らせてもらいます」

 烈成はそう怒鳴ると一人振り返って行ってしまった。

「追わんのですか?」

 真央に聞いた。教授に聞くと自分まで帰される気がしたからだ。

「あいつは…。パニクるとああなるのよ。本当に帰ったりはしないわよ、あいつにだって事情があるんだから。でも今日は今まで以上に凄かったわ。あの烈成があそこまでキレるなんて」

「真央さんはど思います?」

「私は信じるわよ、この遺跡と古代人の力を。そうでないと卒論が書けないからね」

 この人もちょっと変わってるな。卒論のためだけにこんなこと、自分にはできない。世間は絶対にこの遺跡のことを信じないだろうに。

 恵理乃の心配を余所に一行は遺跡の奥へと進む。

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