第14話 僕の居場所
先輩へ告白した日から、数ヶ月。
僕らは3人が集うようになった中庭でいつものように時を過ごした。いろんな事があった学生生活。まだ終わりじゃないけれど、もうすぐ先輩は卒業するそんな時期まで時は進む。
今日は先輩が用事があり、珍しく僕と「初恋の彼女」とふたりきり。
「結局先輩が卒業まで付き合わなかったわね。もしかして私に遠慮した?」
彼女は、冗談半分で僕にそんな事を言う。
「まあ、ぶっちゃけるとそうなるかなあ。前さ。君が付き合ってるときに、そこに僕も入ってたわけなんだけど、付き合っている人の中に入るのって結構しんどいもんだよね?まあ、僕の場合、君のことが好きだったってことも大きかったけどね。だから、付き合うのは、まだ止めておこうと・・・ね。3人で過ごす時間もいいもんだからさ。」
僕はもう隠さなかった。素直に思ってることを彼女に伝える。
「確かに、最初から君と先輩、付き合ってるふたりと一緒に過ごすとなったら、私、ここにはいなかったかも、まだ、諦めきれてたわけじゃなかったしね。というよりも、まだひきずってるよ?わたし。やっぱりあのキスは忘れられないのよね。罪深いよ、「僕」くん。」
くすっと笑いながら、彼女も言う。
そう、まだ彼女には彼氏はいない。以前の出来事で、彼氏を作ることにたいして一歩引いてるのか、ただ、好きな人がいなくて作らなくてもいいと思ってるのか、他の理由なのか、それは僕にもわからない。
「でも、今は違うかな?君と先輩が付き合ったとしても、私は、ここに来るつもりよ。だって先輩のこと好きだからね。それと、付き合ってくれたほうがわたしとしても、踏ん切りつく気がするんだけどなぁ。」
彼女は今度はニヤニヤした感じの笑いにかわり、僕をいじろうとする。
「まあ、そのへんは今はいいでしょ?3人の時間楽しまなきゃ。」
僕はごまかすようにそんな事を言う。ゆったりとした時間を過ごしながら。
3人で過ごすようになって彼女はなにか変わったような気がする。なにがと問われると、はっきりとしたことは言えないけれど、なにかふっきれたようなそんな感じ。とりあえず、元気でいてくれることに僕としては安心している。
また、彼女に対しては、昔のような恋愛感情から友情のようなものに気持ちが変化した、そんな気がする。勝手な感情と言われれはそれまでだけど。
ただ、彼女に対して、すべてが失われず、彼女のことを忘れることが出来ないそんな感情が心にこれからもあるということは僕にとって大切なこととなっている。
そういえば、「元親友」に関してだけど、はっきり言うとよくわからなくなっている。先輩が中庭へと移動してからも、屋上で過ごしていることは聞いたことが有るという程度。実際、「元親友」はもう教室で過ごすことも問題はない気がするけれど。まあ、そればかりは本人じゃないとどう考えているかはわからないから。
また、先輩に関しては、卒業後、地元の大学に進学することになっている。当初は、地元を離れた大学を第一志望としていたけれど、僕と離れることのない地元の大学を選んでくれた。学校では会えなくなるけれど、また、ふたり、さんにんで場所を探せばいい。一緒にいられるそんな場所が僕の、僕らの場所、居場所になるのだから。
「いつかは、4人で集って楽しみたいね。ちなみに4人目は「初恋の彼女」の彼氏さんの予定だよ。」
彼女は、そっぽを向いてからかわれたことにちょっとほっぺを膨らませることで僕に抗議した。
とうとう先輩の卒業。
僕と「初恋の彼女」は卒業式に出席はできなかった。それでも、学校に来て、花束を持ち、卒業式が終わるまで中庭で待っていた。いつものように。
「とうとう、先輩卒業だね。寂しくなっちゃうなあ。」
「ほんとだね。ここ中庭にくるようになって、いつも3人でいたしね。」
「来年からどうなっちゃうかなあ。」
ちょっと不安顔で僕にそう言う。
「僕はいつもここに来るつもりだよ。ひとりでも。学校内限定だけど、ここは、僕が最後にたどり着いた居場所だからね。」
「そっか・・・あのね・・・先輩いなくなっても、私、君の居場所にお邪魔していいのかな?先輩に申し訳ない気がして。」
「気にしなくていいよ。もし来てくれるなら僕も嬉しいし。それに、彼氏できたら連れてきて紹介してほしいし。」
僕は、ニヤニヤして彼女にそう告げる。
「わかったわよ。できたら、紹介するから。もう、言わないで。」
彼女は、ふんっと顔を背けてそう言った。
大きな声が中庭まで聞こえてくる。どうやら、卒業式は無事終わったようだ。先輩には、事前に中庭にいることを伝えているので、僕らはとくに焦らず先輩が来るのを待つ。
先輩が来た。髪をなびかせて。
「先輩、卒業おめでとうございます。」
僕らは先輩にお祝いの言葉を伝える。それからすぐ「初恋の彼女」は待ちきれないかのように、走り出して先輩に抱きついた。
「寂しくなりますが、大学も頑張ってくださいね。」
彼女は今にも泣き出しそうな声で先輩に伝えた。
「もう、おおげさね。別に卒業しても会えるでしょ。私、地元の大学なんだから。」
先輩は、ちょっと呆れたふうに、彼女の頭をなでながらそんな事を言う。
「そうですね。またすぐ会えますもんね。わかりました。先輩だいすきーーー」
ほんと、「初恋の彼女」、先輩になついたもんだ。僕はちょっと笑ってしまった。
「こんどは、学校外で私達の居場所を探さないとね。「僕」くん、頼むわよ。」
「はいはい、わかりましたよ。」
先輩は、居場所づくりは僕に丸投げのようだ。
少しの雑談をした後、「初恋の彼女」は先に帰ると言いだす。
「多分、ふたりで話すことがあるでしょ?おじゃま虫は先に帰りまーーーす。」
なんて言いながら。
「初恋の彼女」を見送った後、僕と先輩は中庭で少しの間、静かに時を過ごす。本当にいろいろあった。苦痛も多かったけれど、それがなければ、先輩と出会わなかった。そう考えると、あれは僕への先輩に会わせるための試練だったんじゃないかと。そんなふうにさえ思えてしまう。
今では、こうやって一緒にいることが出来て幸せだ。
でも、今日は、先輩の学生生活最後の日。僕には伝えなきゃ行けないことがある。
「先輩。」
「なあに?「僕」くん。準備できたの?」
くすっと微笑んで、僕に返事を返す。
「そうですね。やっとです。本当におまたせしました。」
「先輩大好きです。僕と付き合ってください。恋人になってください。そして、僕の居場所となってください。」
僕は、先輩と約束していた告白の言葉を、しっかりと伝え、静かに返事を待ち続けた。
僕の居場所はどこですか? ここです。 @kokotangpu
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