第02話 一輪の華


学校へ来ては空きのある時間、僕はいつもの屋上へと足を運ぶ。


初恋だった彼女と親友だったあいつ


そんなふたりを見るのが辛くて

そんなふたりと近づけなくて

裏切った僕が嫌で


屋上に来ては空を見上げ、ただ漠然と時間を過ごすそんな日々。


周りが見えず、いや、見ることもなく、ただの人形のように時間を過ごす僕だから


この屋上に他の人が存在することさえ全く気づいていなかった。


「いつもいらっしゃいますね、あなた。」


いつもなら、まったく人の声さえ聞こえない気づかない僕に、ふと掛けられる声に気付いた。


それでも僕は反応しない。いや反応できない。僕になんてと僕はいないんだと思う気持ちが掛けられた声に振り向く余裕を与えない。


「こっち向いてよ、そこに座り込んでるあなたですよ。」


また声がかけられる。僕は周りを見渡して、付近に僕以外に誰もいないことを確認する。


頭が再起動して、やっと僕は反応する。


声の掛かった方向へ僕が振り向くと、そこには淡い赤色の髪をしたすらっとした美人がそこにいた。見たことがあるような気がするが、いつもの僕は周りが見えていない

ただの人形だったからやはり思い出すことは出来ない。


情けない・・・ちょっと前ならこんな美人忘れないよなと思わずふっと含み笑いをしてしまう。


そんな声を掛けられたあの日から、僕と先輩との交流が始まった。


あまり反応しない僕になにか興味を持ったのだろうか、合うたびに声を掛けられ、交わす言葉も日を増すごとに増えていく。


聞けば彼女は一個上の先輩で、屋上でのんびりするのが好きなそんな、そんな人だった。


先輩は僕が暗い理由を気にはしていたけど、それを聞き出そうとすることは最初以外にしなかった。


最初は興味もなかった僕だけど、傷んだ心に針を刺すこともなく僕と言葉を交わしてくれるそんな存在に、次第に興味が湧くようになる。

そう、今までなにもなかった屋上に、空っぽだった僕の心にそっと囁くそんな新しい一輪の華が生まれた。


別に好きになったとかではないけれど、そんな簡単に前のことが忘れられるわけはないけれど、それでも一人でいる時間はやはり寂しかったようで、そんな寂しさに気づかないふりをしていた僕をすくい上げてくれたのだろう。

何も出来ない僕を助け出してくれたのだろう。


少しずつすくい上げられていった僕は、屋上に彷徨い出した頃よりも随分心が軽くなっていた。やはり1人でいるよりも誰か側にいるということがとても大きいことなんだと今更ながらに思ってしまった。


けれども、転機が訪れる。


先輩が話題を珍しく恋愛へと持っていく。彼氏はいないけど私結構持てるんですよなんて先輩の自慢。彼女はいないんですか?等僕の恋愛関係。大したことじゃないんだと思う。こんな話題。


それでも、やっぱり辛いんだ。


僕は振られたわけではない。いや、振られたのか・・・いや、振られる以前の問題だったあの時間。裏切って人を傷つけるそんな行動を起こした僕。そして、頭に浮かぶのは元親友と初恋の彼女のふたり。


痛む 痛む 前が見えない


僕の頭は回らない。僕の心が動かない。そんな事実が僕を蝕み、過去の人形へと戻りそうになる。


無言で佇む僕を見て、多分気付いたんだろう先輩は、そんなことはさせないよとでも言うように


「私なんてどうですか?」


なんて、先輩は頬を少し染め、照れ笑いを浮かべながら冗談みたいなことをいう。


そして先輩は、僕の手を取り、一言。


「今から遊びに行きましょう」と。


僕の「屋上」という元親友から、そして、初恋の彼女から逃げだした




そんな場所から誘い出す。

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