僕の居場所はどこですか?

ここです。

第01話 僕はいないほうがいい


僕は走った。ただただ走った。いや、逃げたのだ。やってしまったと、裏切ってしまったと。


家にたどり着くと鍵を開け、リビングを素通りし僕の部屋へと一目散にむかう。


そしてベットに倒れ込み、ただただ後悔の念を抱く。


頭の中が混乱し、吐き気まで及ぼしてくる。なぜ我慢できなかったのかと。いや、いずれこうなることはわかっていたのかもしれない・・・


もともと引っ込み思案な僕は、なかなか友達が出来なかった。そんな中、幼い頃に出会い、いまでもお互いに気兼ねなく付き合える親友がいた。


とてもとても大切な存在だった。


クラスカースト上位でもあり、勉強ができ、スポーツも万能、そして、男からみても良いやつだと思えるそんな親友。


平凡、いや、平凡より劣っているそんな僕とは違い、何でもできるそんな親友だけど、別に僕は僻みもしなかった。逆に誇らしかった。


だけど世界が一変した。


親友が彼女が出来たと僕に紹介してくれたのだ。親友に彼女が出来てよかったと話を聞いた当初は思っていたんだ・・・


彼女を見るまでは・・・



親友から紹介された親友の彼女が目の前にいる。


「「彼女」です。「僕」くんよろしくね。」


その彼女から自己紹介された。されなくても知っている。同じクラスの子なのだから。よく知っている。だって、僕の好きな子だったのだから。


目の前が暗くなった。なんでなんでなんだと。


いやわかっていた。僕では彼女のそばにはいることが出来ないんだと。引っ込み思案で彼女に声さえかけることが出来ない僕。遠くから眺めることしか出来なかった僕。そんな僕ではどうしようもないではないか。

親友は誰にでも好かれ、そして女子の間でも人気者だ。僕と違い、彼女なんてできるのは当たり前だと思っている。だから当然の結果なんだろう。


でも、それでも辛すぎるよ。なんで親友の彼女なんだって。大切な親友と好きだった彼女。そんな二人を祝福し、側にいなければならないことが。


辛くて辛くてたまらないではないかと。


それでも、しばらくはなんとか心の葛藤を抑え、ふたりと学園生活を送っていた。でもその葛藤が今日は抑えきれなかった。


やってしまったんだ・・・



放課後、いつものように親友と彼女、そして僕でいつもどおり帰ろうとしたところ、親友が先生に呼ばれた。


そのため、親友が「先に帰ってて」と、「追いつくから」と言われたため、はじめて僕と彼女ふたりきりで、とりあえず帰ることになった。


だけども、特段、親友以外に交流がないふたりなため、話すこともなく無言で帰り道を歩く。


帰る途中、彼女が躓いた、よろけてしまった。

僕は、彼女が倒れないよう、助けようとしておもわず抱きしめてしまった。


不可抗力ではあるが、彼女を抱きしめてしまった。おまけに彼女の顔が近い。目の前にある。僕の頭は何が起きているか理解できない。僕の欲しかったものが目の前にある。腕の中にある。


彼女をじっと見つめてしまった。彼女は顔が赤い。かわいい・・・と。


僕は無意識のうちに

彼女にキスをしてしまっていた。




僕は走った。僕は逃げた。

やってしまったと、裏切ってしまったと。


ごめんなさいとひとこと残し、ただただ逃げた。最低な僕だと自己嫌悪に陥りながら。




いつの間にか僕はベットで寝ていたようだ。とりあえず起き、ダイニングへ行き、冷蔵庫から飲み物を取り飲み干す。相当に堪えていたようだ。のどが渇いて仕方なかった。


僕はリビングでソファに座り僕が犯したことについて考え込む。今後、僕がどう行動すればいいかを。


親友、彼女には謝りたい。けれども、親友に伝えていいものか彼女が望むかどうかわからない。

彼女には謝らなければならない。けれども、それよりも彼女に近づくこと自体もうしてはいけないんじゃないのかと。


もう過ちを侵さないように。


とりあえずふたりにはもう近づかない、ふたりとも大事なんだと。僕が近づいてはいけない、そんなふたりなんだと。



翌日から僕はふたりを避けるようになった。帰りもいろいろと理由をつけ一緒に帰らなくなった。


親友は心配をして、僕に声をかけてくれる。とても嬉しい。僕の本当の友達は君だけだ。


けれど、僕は親友を避けた。もう、親友を裏切りたくないと。時間ができた僕の行き先は、決まって屋上になってしまった。


1人でいるということよりも

2人に会わないために。




しばらくそんな日々が続く中、机の引き出しの中に彼女から呼び出しの手紙があった。


僕もキスのことは謝らないといけないと思っていたので、会ってはいけないと考えていたが良い機会と考えそれに従った。


呼び出されたのは放課後の校舎裏。向かえば彼女が先に来ていた。


「あのことは忘れるから、だから「親友」くんとこれからも仲良くして」


彼女は僕にぽつりと言った。


謝るつもりだった。僕が悪いのだから。親友を裏切ったのだから。勝手に彼女にキスをしたのだから。


だけどそれでも・・・


この言葉に僕は我慢ができなかった。


「僕が悪い。わかっている。だから恨んでいい。嫌っていい。でもそれでも・・・忘れるなんていわないでくれ。僕は君のことが好きだったんだ。抑えきれなかったんだ。腕の中にいる君を見て我を忘れてしまったんだ。好かれなくていい。嫌ってくれ。憎んでくれ。それでも忘れないでほしいんだ。」


僕は涙を流しながら彼女に伝えていた。


情けない。なにが忘れないでくれだ・・・嫌なことは忘れたいに決まっている。僕の勝手な言い分だ。それでも、僕の気持ちがなかったことになる、それだけは我慢ができなかった。恥ずかしいことだ。身勝手だ。


「ごめん。もうふたりには近づかない。「親友」は大切な人だった。だから、余計に裏切った僕が許せない。だから、もう「親友」にも近づけないよ。」


ほんとうにごめんなさい・・・


ぽつりと最後、彼女にそう伝え、僕は校舎裏をあとにした。




あれから数ヶ月。


僕は時間があれば、いつものように屋上へとひとりやってきている。ふたりのことはもうよくわからない。もうふたりのことを受け付けようとする心の余裕がないようだ。


親友を失ってしまったのは僕のせい。親友はときおり声をかけてくるが、僕は無視をし関わらないようにしている。多分、親友は僕が何故離れてしまったのかわからないだろう。わからない方がいい。

こんな僕のやったことで苦痛を味合う必要はない。それに親友には彼女がいる。だから大丈夫なはずだ。


彼女はどう考えているかはわからない。それでも、嫌悪だろうがなんだろうが、すこしでも、僕を憶えていてくれていたらなんて思ってしまう。


いろいろと屋上に来るたびに思い出して考えてしまうけれど…


結局は、僕がいないほうがいい。


そう。僕はいないほうがいい。

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