六時間目 総合

第一話 授業とは?

 休み時間に僕は、廊下をウロウロしていた。一年生の教室を覗いて回った。

 どのクラスも、活気に満ちている。誰一人として、下を向いている人はいない。つい先日までの暗い雰囲気が、嘘のようだった。

「もうこの戦争も、終わりが近い」

 僕はそう感じた。でも、具体的にはどのように終わらせるのか、それままだ決まっていなかった。

 完璧絶対授業を廃止に追い込む。それは達成しなければいけない決定事項だ。だけど先生たちが、いきなり止めますなんて言うとは思えない。かと言って僕たちの方も、学校全体を巻き込んでデモをするとかは考えてない。

 ここまで来ることができるとは、本当は考えてなかった。僕一人では絶対に無理だからだ。けれど一緒に戦ってくれる仲間がいた。そして仲間たちの支えがあって始めて、来ることができた。

 みんなに感謝しなければ! そしてその日は、きっと遠くない。

 四組に帰って来るのと六時間目の総合が始まるのは同時だった。担任の中園先生がもう教卓の前で待機している。

 今日の日直は僕だ。

「起立! 礼! 着席!」

 僕は戦争開始の合図をした!


 今日の総合は何をするか、聞いていない。先生がプリントを持っている。ほとんどの場合は自習なんだけど、今日は違うらしい。

 先生がプリントを配った。

「みんな渡ったね? じゃあプリントに名前を書いて、設問に答えて」

 僕は名前を書いた。そしてプリント全体を見た。設問は四つで、そられについて自分が思い浮かぶことを書けって書いてある。


 一つ目は、学校はとはどういう場所か?

 二つ目は、授業とは何か?

 三つ目は、先生とは何か?

 最後の四つ目は、生徒とは何か?


 僕は、一つ目には戦場、二つ目には戦争、三つ目には敵国、四つ目には戦友と書きたかったけど、流石にやめた。

 僕の手が止まった。正直な答え以外に、何を書けばいいのかわからなくなった。そう言えばちゃんと考えたことがなかった。

 学校って、何だろう? 無理矢理行かされているところ、先生がいるところ、生徒がいるところ…。

 授業って、何だ? 先生が生徒に教える、先生が威張る、生徒がついて行く…。

 先生って? 偉そうな人、教卓の前に立つ人、大人…。

 生徒は? 机に座っている、黒板をノートに写す、先生の言うことを聞く…。

 自分が思い浮かぶことを書けって言われても、僕が考えていることは、求められている答えとは、違う気がした。

 周りを見回してみる。みんなペンを走らせている。それができていないのは、僕だけのようだ。顔を上げているのも僕だけだ。

 みんなは何て書いているんだろう。すごく気になる。それより僕は自分のことに集中しないといけない。でも、何も書けない。

 僕は横を見た。織姫がプリントの下の方に記入している。もう三つ目ぐらいだろうか? だとすれば彼女は、学校と授業について何と答えたんだろう?

 教室の中で、段々とペンの走る音が聞こえなくなり始めた。書き終えた人が出始めたのだ。対して僕は、まだ一つ目にすら何も書いていない。

 時間だけが刻一刻と過ぎていく。隣の人と相談し始める人まで出てきた。でも何も書いていない僕には、それはできない。

「日直さん!」

 先生が言った。

「呼ばれてるよ!」

 織姫が僕の机を叩いた。

「何?」

 織姫が時計を指差した。二時五十五分である。六時間目の終了時刻だけど…。

「あ!」

 そうか、先生は日直の号令を待っているんだ。

「起立! 礼! 着席!」

 今日はこの後すぐ帰りの会だ。総合のプリントはその時に回収された。

 結局僕は、何も書くことができなかった。

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