第五話 先生を味方に!
その後もカルタは続いた。僕たちは英語カルタに熱中した。これは面白い。間違えても先生が詳しく解説してくれた。正解すると褒めてくれた。
「次で最後だ」
「でも先生、カードはまだ三枚ありますよ?」
「最後の一枚になるまで続けたら、英語を知らなくても答えがわかってしまう。それは勉強にならないからね」
確かに言う通りだ。
「ではラストワン! グレープ…」
それを聞いた僕はすぐに動いた。そしてブドウが描かれたカードを叩こうとしたその直前、
「…フルーツ!」
しまった! 僕は早すぎた。僕の手の軌道は今更変えられず、ブドウを叩いた。取れなかったグレープフルーツのカードは、織姫が取った。
「やった!」
「今のは悔しい!」
各自、自分が取ったカードの枚数を数える。僕は六枚だ。
「俺も六枚だぜ」
「僕は、五枚です」
「私は八枚。私の勝ち?」
須美ちゃんはそう言って織姫の方を見た。
「わたしは……一枚…」
織姫は断トツで最下位だ。
もしこれが完璧絶対授業なら、徹底的に先生に叱られる。でも木村先生は、
「織姫さん。今回はちょっと残念ではあったけど、次は頑張ってみて。カードは変わらないから、単語を覚えれば須美子さんともきっと互角に戦えるようになるよ」
「本当…ですか?」
織姫が自信なさそうに聞いた。
「誰だって最初は結果は悪いものさ。君たちの戦争だって、初戦は勝ったかい?」
言われてみれば最初はいつも、先生にしてやられていた。でもそこから僕たちは立ち上がって行った。
「先生、次はって言いましたけど、このカルタを今後、授業でも行っていくんですか?」
栄治郎が聞いた。
「そうだね。まずは明日、校長先生が出張から帰って来る前にやってみようかな。それで生徒たちの反応を見てみたい。好評ならこれからも行っていきたいよ。カルタは他に何種類もあるんだから。でも不評なら、やめるしかないな…」
「これが不評なワケありませんよ! 先生、明日全クラスでこれをやってみて下さい!」
僕は言った。先生は必ず味方にしないといけない。ここで否定的なことを言えば確実に木村先生と敵対してしまう。それは絶対に避けたい。それに、カルタは実際に面白かったんだ。
「劉葉君が言うなら、そうしてみよう」
先生はやってみることに決めたようだ。そして、
「私もこの学校の方針には、反対だったんだ。本来学校は、生徒が苦しい思いをするようなところではないんだ。私も今の授業体制が導入される直前、校長先生に反対したよ。でも、私一人では全く意味がなかった」
先生も味方を必要としていることを言った。
「劉葉君たち。君たちが私に協力して欲しいと言ったのと同じように、私も君たちに協力して欲しいと考えているんだ。どうだい、一緒に完璧絶対授業を廃止にしようではないか!」
なんと、先生の方から協力を要請してきた!
これには凌牙たちもビックリしている。だけど僕は驚かなかった。木村先生のような人が、いないはずがない。立場上逆らえないだけで、本当はこの授業に嫌気がさしている人はいっぱいいるはずだ。
「先生がそう言うんなら、悪くねえな」
「ちょっと待って下さい、凌牙君。もしかしたら罠かもしれませんよ?」
「確かに私もそれには引っ掛かるところがある…」
三人は中々首を縦に振らなかった。
「じゃあ、こうしよう!」
僕はあることを提案した。
「先生。宣言通り明日、全クラスでカルタをして下さい。そうしてくれれば、僕たちは先生が協力することを了承したと判断します。先生も生徒からの反論がなければ、僕たちが了解したと判断して下さい。先生が明日、どうするかにかかってます!」
先生はニコッと笑って、
「わかったよ。明日の英語はカルタ大会だね。私が本気だってことを、そこで証明してみせよう!」
先生と約束はした。あとは、明日の結果を待つだけだ!
昼休みに僕は、織姫を連れて三組、二組、一組に行った。そしてそれから、職員室に向かった。
「木村先生!」
職員室の中で話すワケにはいかないので、僕は先生を廊下に呼び出した。
「凌牙も須美ちゃんも栄治郎も、みんな先生のカルタが面白かったって言ってました!」
「そうか。それならよかった! 万が一、君たちの内の一人にでも反対されたらどうしようかと思っていたところだったんだ」
僕は先生と握手した。
「先生と協力できるなんて、夢にも思っていませんでした! でも、実現できました!」
「私もだよ。あれだけ辛い思いをさせたのに、生徒たちが私を受け入れてくれるとは思わなかった。劉葉君、ありがとう!」
次に織姫が握手をした。
「先生! これから一緒に、頑張りましょうね!」
先生は笑顔で頷いた。
ついに僕は、先生を味方にすることができた!
「お父さん。今日は遅くならなかったね」
家では僕の方から、お父さんに話しかけた。
「おかげで早く帰ってこれたよ」
今度はお父さんの方から僕に話しかけた。
「劉葉、学校は楽しいかい?」
「もちろん!」
僕は答えた。
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