第三話 協力?

「で。考えられた作戦がこれか?」

 凌牙が文句を言う。

「もう少しマシなのは、なかったの?」

「これでは僕らが親に叱られますよ…」

 須美ちゃんと栄治郎も便乗する。

「すまない…! けど、今日しかないんだ! いつもは校長先生が最後まで残って校内の見回りをするんだけど、明後日まで出張だからいないんだ。だから最後に木村先生が残るようにできるんだ。そうすれば見回りは木村先生になるんだ」

 僕は職員室をドアの窓から覗いた。木村先生を含めて、あと三人残っている。先に二人が帰ってくれれば…。

「今、織姫が頑張ってくれている。きっと後、もう少しだ!」

 織姫には、英語に関してわからないところをしつこく先生に聞くように言ってある。そして質問は何個も用意した。基本的な文法から、発展問題に至るまで数多く。みんなで一週間考えて思いついたその質問の連続攻撃が尽きる前に…。

もし先に尽きてしまって木村先生が帰ってしまったら、質問は一から考え直し。校長先生は明日もいないけど、質問はたった一日では用意し直すことは不可能。だから今日しかない!

「頑張って下さい、織姫さん…!」

「早く帰れよ水谷のヤロウ! 全くムカッとくるぜ!」

「こういうことも邪魔するなんて、金沢先生は本当に最低!」

 先生が一人、職員室から出てきた。

「何で残ってるんですか、みなさん? もう下校時刻でしょう? 遅くならないうちに帰らないといけないでしょう?」

 金沢先生だ。

「うるさいわ! 先生こそさっさと帰ってよ!」

 須美ちゃんが言う。金沢先生は須美ちゃんの横に僕がいたからか、何も反論しないで帰った。

 次に出てきたのは、水谷先生。

「もう鞭があっても、怖くもなんともないぜ!」

 凌牙が言う。職員室に織姫がいて、さらに廊下に僕がいるためか、

「……」

 水谷先生は無言で帰った。

 いい調子だ。これで最後は木村先生。もう一度職員室をドアの窓から覗いて、先生と織姫しかいないことを確認したら、僕たちはドアを開けて中に入った。

「おや? 君たち、まだ帰ってなかったのかい? もう六時になるよ。早く帰ら…」

 僕は先生の話を遮った。

「先生! お願いがあるんです!」

「私にお願い? 何だい?」

 ここまで来て、引き下がるわけにはいかない! 僕は勇気を振り絞って先生にアタックした。

「僕たちに、協力して欲しいんです!」

「協力?」

 先生はよくわかっていないようだ。僕は事情を説明することにした。

「僕は、いや僕たち生徒は完璧絶対授業に反対です。これを失敗させて廃止に持ち込むのが目的です。でも僕たちだけでは限界もあります。いくら生徒が訴えても不良の文句と言われてしまえば、学校はそう認識してしまいます」

「まあ学校に不満があるから不良になるんだろうし…」

「そこでです! 生徒たちの声を改変しないで学校に伝えてくれる人が必要です。それを先生に頼みたいんです!」

 僕は思いをぶつけた。あとは、先生がどう答えてくれるか…。

「僕からも、お願いします。先生だっていつも見てるでしょ、三組の様子を。今のままでは僕たち、毎日お葬式のために学校に行ってるようなものです」

「中学校は義務療育なんだろう? だったら俺たちにその有難味がわかる授業をしてくれよ! 俺たちは学校は選べないんだ、でも俺たちに合う授業を受ける権利はある!」

「先生だって、この学校の方針には反対じゃないの? 行う先生と受ける生徒が手を取り合って初めて本物の授業よ! 今先生たちがしてるのは、ただの威張り散らしよ!」

 栄治郎も凌牙も須美ちゃんも、それぞれの思いを叫んだ。

「先生、お願いです。わたしたちの味方になって戦ってください!」

 織姫が最後をしめると、僕たちは一斉に頭を下げた。

「なら」

 先生が答えた。

「なら君たちも、私に協力してくれないかい?」

「協力? 僕たちが?」

 先生は時計を見て言った。

「今日はもう遅い。早く帰らないと、親御さんに君たちも私も叱られてしまう。明日の放課後、四組に集まろう」

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